降り注ぐのは、君への手紙



 だけど、武俊くんはずっと目を覚まさなかった。

最初は気丈に笑っていたおばさんが、いつしか話すだけで泣き崩れるようになる。
私の母も私も、彼女が心配でいつも傍にいた。

武俊くんが救った猫は、まだ子猫だったからか直ぐに懐いてくれた。
名前は【イチ】。
三月一日に出会ったから日付から名前をとった。

武俊くん、話したいことが一杯あるよ。

イチはこんなに大きくなったよ。
私、武俊くんにこの子を見てほしい。

私も、大学生になった。
ひっつめおさげも、似合わない眼鏡もやめた。
武俊くんが言ったからだよ。

大学のサークル勧誘ってすごいんだね。
驚いたよ。
だって、私の学部、教育学部だよ?
先生になる人って真面目な人が多いと思ってたのに、そうでもない。
「花見で酒飲もうよ」とか言われて、私は目を丸くしちゃった。

お見舞いには、おじさまに連れられて何度か行った。
呼吸だけは続けているのに、ぴくりとも動かないまぶたを見ていると、次第にイライラしてきた。

どうして起きてくれないの。
待ってるのに。

おじさまだっておばさまだって、私だって。

雨が降っても風がふいても、奇跡は起きない。
もしこのまま死んでしまったらどうしよう。
無性に心細くて、唇を噛み締めた。


「……私にあんなことまでしておいて、そのまま逃げるなんて許さないわ」


今になって、何度も脳裏をよぎるあの時の情景。
今更、あの日のキスの意味を知りたいと思っても、武俊くんは答えてくれない。