「猫のこと?」
「それもあるけど、私のことも」
「成美には、何もしてやれてないよ。怖がらせただけだ」
壁ドンして親父のことは諦めろよって脅して、キレた挙句に無理矢理キスした。
今思い返してみても、俺は何一ついいことはしていない。
「……私ね、おじさまが好きだったの」
「知ってるよ」
「本気なんだって信じてくれたのは、武俊くんが初めてだった」
「え?」
成美はくすりと笑うと目を伏せて足元の猫を見つめる。
「お母さんにもおばさまにも言ったことがあるの。おじさまは素敵だね、私、おじさまが好きって。
おばさまに言った時は、かなり勇気をだしたの。ライバル発言のつもりだったから。
でも全然通じなかった。『あら、ありがとう。あの人も喜ぶわ』って言われて悲しかった。所詮子供の戯言だって言われている気がして」
まあ、親世代ならそうだろうな。
娘のような年代の子供が、五十代に本気で惚れるとは思わないだろう。
「武俊くんだけ、真剣に信じて、真剣に怒ってくれた。確かにあの頃武俊くんが怖かった。でも嬉しかったのも本当。私の気持ち、ちゃんと認めてくれていたから」
風が吹いた。十二月の風は半端無く寒い。
俺は盾になれるように体の向きを少し動かす。



