「あ……武俊くんっ」
背中に聞こえた声に、驚いて足を止めた。
声の主は銀杏の公園にいた。
今は葉が落ちて、すっかり寒々しい姿になっている。
その樹の根元に、コートを着込んだ成美がいた。
俺に向かって伸ばした手を、そこからどうしたらいいのか迷って途方に暮れている。
寒さで赤くなった頬は、彼女の美しさを際立たせていた。
“成美”
呼びかけようとした声は、一度は口の中だけを滑る。
逃げたくなる気持ちを奮い立たせる為、俺は自分を叱咤する。
もう逃げるな。逃げちゃダメだ。
顔向けできなくなるじゃないか。
……誰にだ?
ああもうわかんねーけど。
なぜだかそう思うんだから仕方ない。
いつか、晴れ晴れした顔で会いたいんだって。それが誰なのかは分かんねーのに。
「成美っ」
反応するように、成美が顔をあげる。
「……この間、ごめん」
弾んだ息が、白い煙となって消えていく。いざ、あと一歩の距離まで近づくと、足が止まる。
近くで見る成美があまりに綺麗で、続ける言葉が頭から抜けていった。
互いに俯いていると、成美の前合わせのコートがもぞもぞと動いた。
「にゃーお」
ピョコンと顔を出したのは、茶色のあの猫だ。
「随分イイ場所に収まってるじゃねぇか」
もう子猫でも無いだろ。甘やかすなよ。
胸元とか男の浪漫だぞ。気軽に獣を入れるな。



