人は、沢山の人に背中を押されて生きている。
自分一人で歩いているつもりでも、振り返ってみれば、幾つもの人の手が俺を押してくれたことが分かる。
自信がないとか、どうせダメだとか。
そんな逃げ方をしたら、その手のひらに叩かれる。
何やってんだ、お前。
行くんだろ、前に。
ほら、しゃんとしろ。
俺も、そうやって押してたはずだ。
頑なに親父に向かって閉じこもろうとする成美を、叱咤しながら押し続けていたはずだ。
今は、俺が皆に押されてる。
誰にかっていわれたらマスターとか妃香里とか?
他にももっといたような気がするけど、今は思い出せない。
喫茶店を出て、雨上がりの虹のかかった空を見ていたら、途端にはやる胸が抑えきれなくなった。
会いたい、成美に。
会わなきゃ。
卒業式のあの日、言えなかったことを。
退院の日、逃げてしまった理由を。
まっすぐ顔を見て伝えないと。
足が地を蹴る。
昔みたいに長くは走れず、直ぐに息が上がって心臓が暴れだす。
だけどだからって、足を止める理由にはならない。
ゆっくりでも、一歩進むために生きてるんだ。
足を止めてしまったら、死んでいるのと一緒。
俺は死にかけて、それでも生き返ったんだ。
だから、もう二度と歩みを止めてはいけないんだ。



