ヨミが叫んだその時、妃香里の腹からミシリと音がした。
「なんで、どおしてぇ、イヤダ……イヤダァ」
妃香里の声が歪んでいき、低く不快な音に変わる。
彼女の腹の辺りに広がる黒い靄はうねりながら彼女の体を徐々に覆っていった。
「鬼火を制御出来なかった。取り込まれそうになっています」
「どういうことだよ」
「鬼火は念の塊です。意志の強い人が時々落とすんですよ。落とした人が善人か悪人かには関わらず、強い思念だけで存在していて、理性とか知性が無いので順序だてて物事が考えられないんです。同じ種類の念を吸い込んで巨大化していきます。
おそらく賽の河原で捕まったんでしょう。今回の場合は、妃香里さんを憑り代にして念を溜め込もうとしている。ほら」
指差されて、自分の腕を見る。
確かに俺の腕からも、黒い靄が湧き出て、妃香里に吸い込まれる。
誰にでもある悪意。
嫉妬や、悲しみ、そういったものだけで埋め尽くされたら、妃香里はどうなる?
「どうすりゃ妃香里を助けられる?」
「タケさんが彼女を好きになりゃいいんじゃないですか。諦めて死んでください」
「それは無理。何度も同じ間違い出来るかよ。今、形だけ妃香里を好きだって言ったって、もっと傷つけるだけだろ」
「とはいっても怨念にとりつかれたら消滅させるしか手立てが無くなります。そうしたら彼女は転生する機会さえ失ってしまう」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「彼女に鬼火を抑えさせるしかありません。何か記憶をくすぐるものはありませんか? 彼女の善良な心を引っ張りだすんです。もともとは綺麗な魂の子でしたよ。初めて見た時に目を見張ってしまったほどです」



