初めて欲しいモノに手を伸ばしてそれを拒否されたのは、中学生の時だった。
そして、人の手の温かさを知ったのも、同じ季節だった。


「ぼーっとしてないで早く食えよ。おまえただでさえ食うのおせーんだから」

ハっとして顔を上げると、向かいの席で夕飯を食べている由宇が呆れたような顔で私を見ていた。
由宇の顔を見て、今が夕飯の途中だって事を思い出す。

いつも通りの食事の風景に、いつも通りの由宇。
それにどこか安心しながら、私もいつも通り憎まれ口を叩く事にした。

「関係ないでしょ。それにぼーっとしてたんじゃなくて考え事してたの」
「考え事? やめとけ、どうせおまえの頭じゃたいした結論出せないんだから」

事実なだけに、わなわなしながらも言い返せずに黙ると、由宇はそんな私に見下すような笑みを向けてから食事を続ける。

本当に憎たらしいし、嫌なヤツだと思う。
小学校の時から一緒にいるけれど、すぐつっかかってくるところも、バカにしてくるところも、10年経った今もちっとも変わらない。
むしろ、成長するにつれて知っている語彙が増えた分、口が達者になって余計に憎らしさが増した感じだ。

頭のいい由宇に頭の足りていない私が適うハズもなく、口げんかで勝つどころか引き分けにさえ持ちこせなくなったのはもう随分前の事。
おかげでいつもいつも、胸の中いっぱいにフラストレーションが溜まってる状態で。

でも、だからこそ、過去の悲しみに囚われず、こんな風に元気に毎日が過ごせているのかもしれないけれど。