その時、無邪気な彼女の向こうに見えた姿に俺は言葉を呑みこむ。



「あれって……」



夏目は俺の指の先を目で辿り、



「真理ちゃんだ」



そこには制服姿の岩倉 真理(いわくら まり)がいた。



彼女は夏目の1番の友人で、ショートカットの元気娘。

確か、夏目が今日、一緒に来る約束をしていたのも岩倉じゃなかったかな。






────夏目との時間もこれまで、か。



だって元々、夏目は岩倉と回るはずだったわけで。

彼女が見つかった今、俺といる理由は消えてしまった。



「夏目、この花火やるよ。岩倉とやれ」

「……っ」

「夏目?」



横に並んでいるはずの夏目から返事が返ってこない。

ひょいっと顔を覗いてみると、……なんでそんなさみしそうな表情しているんだよ。



小さく息を呑むと、岩倉の視線がこっちに向いた。



「花、奈……⁈」



その声をきっかけにぐん、と浴衣の袖を引かれて、俺は足を進める。

引っ張っているのはもちろん夏目で。



俺たちは頑張って人に紛れながら走り続けた。