――カツン。



部屋に入ったとき、爪先に軽い衝撃が走った。


カラカラとそれは床を滑り、テーブルの脚に当たって止まった。


日光を弾いてきらめくそれは、鈍色の懐中時計。


少年が修理し、『天才』に合格をもらったからくり時計だ。


どうしてコレが落ちているのか。


理由は分からない。


時計を拾い上げ、少年は首をひねりながら外へ出た。


木々に囲まれた緑色が大半を占めている、昨日と変わりない景色。


ただ、壁に立てかけてあったはずの護身用の、鋏を模した武器がなくなっていた。


彼が暇つぶしに造り、少年も『物づくり』の勉強として手伝っていた、大型の人形もない。


本当に、彼が『いた』という形跡が消え去っていた。



昨晩の会話が、少年の鼓膜の奥で再生される。


その言葉に隠された意味を、この現実を見せつけられて理解した。




(ああ、そうか……。


ぼくは、マスターに捨てられたのか)




少年は鈍色時計を強く握りしめる。


そうして彼もまた、半年間過ごした小屋を出た。



もう一度、彼に会うために。


会って、理由を知るために。