大切な誰かを想う気持ち。
人に対するものは旅をするなかで見てきたけれど、ゴーレムに対してここまで強く想う人形職人はいなかった。
だからこそ、ニコは覚えた。
『愛情』という”心”を。
そうして、それに良く似ている『信頼』の”心”も。
「ティファニーは」
「うん?」
「ティファニーは、ぼくが君のゴーレムになって良かったですか?」
間が空く。
質問にきょとんとしたティファニーだが、困ったように息をついて肩から力を抜いた。
照れくさいせいなのか、ぎこちない手つきでニコの背中に手を回す。
「もちろんだよ。いつも一緒にいてくれる家族が、ニコでとっても嬉しい」
ゴーレムとは言わなかった。
その言葉を聞いただけで、別の温もりがニコの身体の芯からあふれ出る。
ニコはティファニーの首元に顔をうずめた。
「……これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
(ラリマーに指摘されていた通りだ。
ぼくはまだどこかで、修復できなかったマスターとの関係を気にしていたらしい。
でも、今はどうでもいい。
本当にぼくのことを大切に想ってくれる人がここにいるんだ。
ティファニーの幸せのために、動いていこう……)
すっかり二人の世界になっているニコたちを、離れたところでラリマーがにやりと笑いながら見つめていた。
リビアたちがきっかけで、こちらの主とゴーレムの絆も深まったようである。
「あいつらも、何とかなりそうだな」
息交じりにそう言って、ラリマーは2人から隣の木へと視線を動かした。
「焼きもちはみっともないぜ、セドナくん。
あいつらがそんな関係じゃねえことくらい分かってんだろ?」
「……うっせ」
木にもたれニコたちを視界に入れないようにしていたセドナが、顔を赤らめてそっぽを向いた。
こちらの問題が解決するのはいつになるのやら。
ますますにやけたラリマーの顔面にセドナの鉄拳が飛んだのは、それから数秒後のことであった。


