「……すみませんでした」
「ったく、一体どうしたんだよ、お前らしくもねえ。
いつもならお前、どんな状況でもギャグかってくらい冷静じゃんかよ」
差し出された手をつかんでニコは立ち上がった。
そのままセドナをじっと見つめ、見つめられているセドナは少しだけたじろぐ。
「な、なんだよ、俺の顔になんかついてるのか?」
「いえ、そうではありません。
ただ……さっきまで見えていた黒い靄が、見えなくなったから」
「は?靄?」
ニコは頷いて、右手のひらを左胸に当てた。
「最初は……ティファニーが攫われたと聞いたときはそこまで見えていませんでした。
でもこの心の部分が妙にざわついて……新しい針が生まれるざわつきとは全く違いまして。
それよりもずっと暗くて、冷たくて、黒々としたざわつきでした。
その胸のざわつきが大きくなるにつれて、靄もどんどん濃くなっていって、視界がほとんど黒くなって……そうしたら急に衝撃が走って。
気がついたら君に鹿から落とされていました」


