天使のアリア––翼の記憶––

「どうしたんですか、先輩らしくないですよ!」

先輩が他人に対して暴言を吐き続けるなど、先輩が壊れたとしか言いようがない。有り得ない、あの藍羅先輩が、あの心優しき藍羅先輩が、こんなことになるなんて。

「わ、悪い。混乱していたようだ」

確かにその通りだ。先輩らしくなかった。

あぁ、壊れた先輩を誰も見ていなくて良かった。私のクラスメイトだけではない。この階にいる全員が、藍羅先輩とデューク先輩が現れたその瞬間から、その美貌のために失神していたので、先輩が暴言を吐いていたところを目撃したのは、私だけだった。

先輩が壊れていたところを見られてしまえば、その可愛らしさに、またファンクラブの会員が増大していたことだろう。

暴言を吐き続ける藍羅先輩は、頬を赤く染めていて可愛らしかった。可愛くなかったのは、その美しい形の唇から出てくる言葉だけだった。


「それで、どうしたんですか?何か用事でもあったんですか?」

私が尋ねると、あ、と思い出したように先輩は話を始めた。

「これ、依頼を頼まれている演奏会なんだが、月子はどう思う?」

封筒を渡された。

「どう思うってどういうことですか?」

珍しい、先輩がこんなことを聞いてくるなんて。

「それが…あぁ、取り合えずその封筒の中に入っているプリントを見てくれ。そのホールが…」

中を見ると、そのホールに関するプリントがぎっしり入っていた。一番初めのプリントを取り出して見ると、直ぐに分かった。先輩が言わんとしていることを。


「る、ルナ・プリンシアホール!?それって、まさか、あの"かぐや会館"のことですか!?」

「あぁ」

かぐや姫会館とは、国内最高峰で世界トップレベルのコンサートホールであるルナ・プリンシアホールの別名である。

ルナはラテン語で月を、プリンシアはフランス語で姫を意味する。

何ともあべこべなホール名だが、取り敢えず日本語にしてみると、月姫会館となる。それが転じて、かぐや会館とも言われるようになった。