天使のアリア––翼の記憶––

そんなこんなで今現在にいたるまで、私はこうして藍羅先輩のお抱え伴奏者として生きてきたわけです。

イマイチ、なんで私を伴奏者として選んでくれたのかは分からない。先輩のことだ、自分の伴奏者をただコンクールに優勝したからという理由だけでは選ぶはずがない。他に何か理由があるはずなんだけど…


「月子、遅い。」

もう一度先輩の声がしてハッと前を見ると数十メートル向こうに先輩が立っていた。腕を組んで、所謂仁王立ち。

あちゃー、やってしまった!


「すいませーん!」


猛スピードで走る。といっても私は運動がそれほど得意でない。走る際ドレスの入った鞄が邪魔になったがこればかりはしょうがない。必死に走り先輩に追いつくと、先輩はお怒りのようだった。

「何してた。これから本番だって自覚あるのか。」

先輩って冷静に怒るんだよね。一番怖いパターンの怒り方だ。


「はい。すいません…」

先輩との出会いを思い出してました、なんて口が裂けても言えない。言ったところで『なぜそんなことを今このタイミングで思い出す。気持ち悪い。』と罵られるだけだからね。

私月子は自ら罵られにいくようなイタイ人間じゃないのです!


「もういい。早く行くぞ。時間がない。」

「あ、はい!」

相変わらず先輩カッコイイ…

ってダメ!ここで先輩のかっこよさに酔いしれボーっとしてたらまた怒られちゃう!

二度も同じヘマはしません!


慌てて遠ざかる先輩の後姿を追いかけた。