天使のアリア––翼の記憶––

「待て!」

男の掛け声がすると同時に、聞こえる足音。アスファルトを蹴る沢山の音が夕闇の住宅街に響く。

走って家まで帰ろうと思ったが、もうすでに住宅街を出て、近所の公園があるところまでやってきてしまった。

ここまで走って気づく。しまった、この辺には家があまりないのだ。家もなければ、建物すらろくにない。全くもって人がいない。まぁ普段は登下校する生徒が使う程度の道なのではあるが。

兎にも角にも、この時間帯にこの道を選んでしまったのは失敗だ。

今はきっと運動部は練習真っ盛り、文化部だって各々が大事なコンクールの前であるため必死に練習に励んでいる。

こんな時間に外をほっつき歩くことができるのは帰宅部だけなのだが、その帰宅部すらいくらなんでもこんな遅い時間まで学校に残るはずがない。


状況整理、終了。

私月子は、ウサギも乙葉も誰も通らないこの道で、危ない輩に追いかけられる。


つまり、私の希望は断たれた。

このまま走っていても追いかけっこ状態であることは分かっていたけれど、この身に迫る危険をひしと感じていたけれど、私は走るしかなかった。

私は走りながらも思考回路をフル回転させていた。



どうする。


どうする。


どうする。


生粋の文化系帰宅部の高校一年生の女子と、がたいのいい大人の男性。

このまま走り続けても、直に追いつかれるのは目に見えている。

私は運動ができる方ではない。人並みだ。その上、文化系帰宅部なのだから、鍛えてない体は直ぐに悲鳴を上げるだろう。

ただでさえ走ってばかりだったんだ、体は疲れているに決まってる。

そうならない前に、どうにか逃げる手段を考えなければ。

どうする、私。

脳みそがあるんだ、頭を使え。

考えろ、考えるんだ。

この危険から助かる方法を、何か。