天使のアリア––翼の記憶––

「先輩っ!!」

喉が痛むほどの大声で叫ぶと、


「………つ、きこ…?」

「先輩!」

先輩の顔に表情が現れた。焦点が合った。先輩の漆黒の瞳に光が戻り、安堵の表情をした私が映り込んだ。

あぁ、良かった。安心して、涙が滲んだ。


「あ、あたし…どうしたんだ…?さっきまでのこと、何も覚えていない…練習して、休憩して、どうなったんだ…?」

戸惑っているような表情をしている先輩。

あぁ、先輩に、先輩に表情がある。そのことが嬉しくて堪らない。


「先輩が歌を歌ってくれて、それで、それから先輩から感情とか表情とかいろんなものが消えて、それで私が呼びかけても応えなくて。」

先輩が、話してくれている。そんな当たり前のことが嬉しくて止まらない涙のせいで、うまく話せない。

「そんなことが…」

しかしそんな私の下手な説明を先輩は読み取ってくれて、状況を確認したようだ。先輩の聡明な頭脳に感謝感謝だ。


「多分、こんなにもハードな練習をして疲れたのだと思います。今日は早く帰って寝てください!いいですね?」

ちょっと上からだったが、そんなことは気にしない。先輩の体調の方が優先だ。

「え、でもそれは駄」

「い・い・で・す・ね?」

私は有無を言わせない口調で言った。

先輩は自分の体調の不具合にも疎いらしいので、私が代わりに気を遣わなくては、先輩が壊れる日が近づくだけだ。


「わ、分かった…」

私の威圧感に負けて、納得してくれたようだ。

「さ、帰りましょう!早く休まないと!」

「あ、あぁ…」

渋る先輩の背中を後ろから強引に押して、音楽室を出た。