天使のアリア––翼の記憶––

もう一度、

「せんぱい…先輩!」

叫び呼びかけても返事はない。


可笑しい。明らかに可笑しい。先輩が、あの先輩が、呼びかけに応じないだなんて。


私を無視しているの…?いや、まさかそんな意地悪、あの藍羅先輩がするわけがない。藍羅先輩は私が知る最も心優しいお方の一人なのだから。

もしかして余韻に浸っているの…?いや、そんなの有り得ない。先輩は自分が歌った歌に関しては冷静に分析する性格なのだ。自分が歌った歌に対して余韻に浸るなど、そんなことをするはずがない。今までだって見たことがない。それに、コンサートならともかく、これは練習だ。ますますあり得ない。


分からない。呼びかけに答えない理由が、まるで分からない。


あ、もしかして気分が悪くなった…とか?

2時間ぶっ通しで歌い続けていたから、やはり疲れていたんだ!あぁ、何で私は気づかなかったんだ。先輩が鈍感だから、その分私が気を付けてあげなくちゃと思っていたのに…!


「先輩……藍羅先輩!大丈夫ですか、一体どうしたんですか、先輩!」


私はただ呼びかける。


呼びかけに答えられないほど、体調が悪いの?

いや、それにしては表情が穏やかだ、というか苦しんでいる表情すらない。何の感情も、ない。

感情の動きを感じ取れない。

先輩は確かにお人形さんのように可愛くも美しい。しかし本物のお人形さんのようになってしまっては困る。


「先輩!!」


肩を揺さぶると、ようやく先輩はこちらを見てくれた。


「…っ!」

しかし喜んだのもつかの間、先輩の顔を見ると言葉を失ってしまった。表情がない、これほど怖いものなどあるだろうか。それも美形の人ほど恐ろしいと思う。


「…先輩、先輩!」

我を思い出し、叫んだ。肩を揺さぶる。


嫌だ、嫌だ、戻ってきてよ、先輩!