天使のアリア––翼の記憶––

あぁ、なぜだろう。

どうして涙が溢れてくるの…


先輩がピアノを弾いたときも綺麗だと感じた。

けれど、先輩が歌ったときの方がより綺麗だと思った。

まるでメロディ達が、先輩に歌われることを待っていたかのように輝きだしたのだ。メロディはより鮮明になって、決して狭くはない音楽室を駆け巡る。まるで一つの曲線、いや、光のようだ。


ピアノの時とは比べものにならない。


音楽室に差し込んでくるバーミリオンの光があまりにも切なくて儚くて、私の涙は更に溢れ出てくるのだった。


夕陽をスポットライトのように浴びて歌う先輩はあまりに綺麗だ。

綺麗なのだが、その中に儚さと切なさをも含んでいるようで、ますます美しいと思った。


最後の響きすら吸い込まれた音楽室に、再び静寂が訪れる。

私は涙が止まらず、ハンカチで涙を押さえていた。


そう言えば先輩の声が聞こえない。

はっと先輩を見ると、先輩は歌い終わったままの姿勢で遠くを見つめていた。

遠くを見つめていた、という表現は間違いだったとすぐに気づいた。

先輩は、今何も考えていない。否、考えていないというよりは、心が空っぽ、即ち無だ。感覚も、感情も、何もかもが消え失せたような表情。

それだけじゃない。何なのだろう、このまま消えてなくなってしまうんじゃないかと本気で思ってしまうほどの儚さは。


「せん、ぱい…?」


先輩の異常を知ると、すっかり涙も消え失せてしまった。


しかし先輩は私の声に答えない。


聞こえていない…?そんなわけがない。先輩と私の距離、約3メートル。そんな至近距離で、且つ絶対音感だって当たり前のように持っているあの藍羅先輩が、私の声が聞こえていないなんてそんなことはあるはずもない。