目を開けるとそこは先ほどまでと何ら変わらない、ところどころ穴が開き酷く荒れたルナ・プリンシア・ホールの大ホールのステージだった。


「あ、れ…」

言葉を失った。

そんなわけがないと急いであたりを見渡せば乙葉と星先輩が悲しそうな顔をしていて今にも泣きそうだった。ウサギと北斗先輩は悲しみに耐えるように眉間に力を入れている。


「嘘だ、そんなの…」


私は尚も見渡して探し出そうとした。


デューク先輩は今も眠るディナちゃんをぎゅっと抱きしめ黙ったまま俯いていた。

時々キラキラと光る雫が零れ落ちていて泣いてるのだと分かった。


私はあたりを見渡しながら言った。


「ねぇ、藍羅先輩、どこにいるんですか。黙ってないで出てきてくださいよ。こんなドッキリやめてくださいよ」


答えはない。

きっとどこかに隠れて、焦る私達の反応を楽しんでいるのだろうと思った。


「ねぇ、藍羅先輩ってば」

「月子」


ウサギが手を掴むが私は振り払った。

違う。そんなわけがない。

絶対、どこかにいるはず。

この会場の、どこかに。


「月子、落ち着け」

「落ち着いてるよ」


条件反射で言葉を返した。

深く考えてはいけない。

ただ先輩を見つけることに専念しよう。


私はウサギには目もくれずただひたすら探し回った。

当てもなくフラフラとステージをさまよう。


「もうそろそろ出てきてくださいよ。隠れん坊なんてする年齢でもないでしょう。ねぇ、藍羅先輩…」

「月子ちゃん」


七星先輩が後ろから私をぎゅっと抱きしめた。


「先輩離してください。私藍羅先輩を見つけなきゃ…」

「月子ちゃん、藍羅はもういないの。この世界のどこにも…」


七星先輩が更に力を入れて抱きしめてくれた。

乙葉も前から抱きしめてくれた。

北斗先輩だろうか、大きくて温かい手で私の頭を撫でてくれた。


優しい暖かさを感じながら、私の視界は滲んでいく。


先輩は、いない。

この世界の、どこにも。



ようやく理解できたとき、私の瞳から涙が流れた。



「藍羅、先輩…」



一緒に笑いあったときの顔も、

真剣に物事と向き合うあの顔も、

デューク先輩を前に真っ赤に顔を染めた顔も、

先輩の歌声も、仕草も、

『今日も、楽しもう』

『私のピアノは先輩のために』

先輩とのおまじないも、


先輩と過ごした大切な思い出が、頭の中で次々に蘇る。





『今までありがとう』




頭の中で、最後に聞いた先輩の言葉がこだまする。

同時に涙がとめどなく流れた。




大好きで尊敬する先輩にはもう会えることはないのだと、直感的に思った。