「…ありがとう。やっぱりあたし、デュークに逢えてよかった。幸せだった。あたし、デュークが大好きだ」


「そんなの、俺もだから!だから傍にいてよ!」


「…ありがとう。そう思ってくれて嬉しい。またいつか逢えたときはまた、仲良くしてくれるか…?」

「そんなの、当たり前だから!」

今にも泣き出しそうなデューク先輩に、藍羅先輩は穏やかな声で話しかけた。


「覚えていて、なんて言ってもデュークはもう忘れてしまうけれど、それでも聞いてほしい。

どれだけ遠く離れたところに行ったとしても、あたしはデュークを忘れない。絶対に忘れない。

それに、また逢える。必ず、逢える…」


そして少しの間目を閉じた。再び開かれたその目には光はなくてどこか遠いところを見つめているようだった。


「我が名はアリア 願いを叶える者なり。

アリアの名を持って命ず。

彼(か)の者 名を 美門・デューク・翼。

彼の者の願いを叶える力を我に与えよ。

全ての責は我が負う。

我に力を」


ホールに藍羅先輩の声が響き渡る。

するとふわりと客席で寝ていたディナちゃんの体が浮き上がって、デューク先輩の元へとスーッと移動した。


「今 そなたの願いは叶う」


藍羅先輩はそう言った。


願いが叶えられたら、私達は藍羅先輩のことを忘れてしまう。

星宮 藍羅という存在がいなかったことになってしまう。


そんなの、嫌だ。





「嫌だあぁぁああぁぁああ!」




私は声の限り叫んだ。

デューク先輩も一緒に叫んでいた。

声が潰れるほど叫んだ。

そんなこと関係なかった。

湧き上がる泣けるほどの感情を抑えられなかった。


そしてぱぁっとステージのライトよりも明るい光が降り注いだ。

あまりにも眩しくて、思わず腕で目を覆った。


目を抑えていた腕には涙が滲んだ。

最後に見た藍羅先輩の姿が頭に焼きついて離れない。

光が降り注ぐ前、先輩は私を見て優しく微笑んでくれた。ありがとうと口を動かして伝えてくれた。

ありがとうという言葉は本来嬉しい言葉であるはずに、今は無性に悲しくて、寂しくて、涙が止まらなった。