曲は、言わずもがなあの歌だった。


クラシックのようで、


ジャズのようで、


喜びで満ちているようで、


どこか楽しそうで、


哀愁と憂いを帯びていて、


哀しそうで、


懐かしくて、


近代的で、


どこか底なしに明るいようで、


深い闇のような影があるようで、


聞いたことがありそうで、


聞いたことがないような、


とても不思議で、とても綺麗なその旋律はホールを巡り巡って彼女の元へと戻っていく。

それは何だかメロディーが彼女に力を与えるようにも見えた。

歌うほどに、メロディが響くほどに、藍羅先輩が神々しい光に包まれていく。きっとライトのせいじゃない。


「待って!」

全身に怪我を負ったデューク先輩は必死に藍羅先輩へと手を伸ばすが、その手は届かない。

その声も、届いていない。


藍羅先輩の背中からフッと翼のような物体が生えてきた。それが完全に翼になると、すうっと目を開けた。


「…すまない。待てないんだ。さっきも言ったけれど、あたしはどうしても行かなければならないんだ」


藍羅先輩は申し訳なさそうに言った。


いつか見た夢と重なる。

全身を嫌な予感が駆け巡り、心臓は鼓動を早める。

嫌だと叫びたい衝動に駆られる。


「待ってよ!どうして俺を置いて行こうとするのさ!?」

悲痛な表情を浮かべるデューク先輩に、藍羅先輩は謝る。


「…すまない」


藍羅先輩も辛そうな表情をしている。


「そんな、謝るくらいなら俺のそばにいてよ!」


しかし悲痛な表情をしているのはデューク先輩だけではなく、藍羅先輩もそうだった。


「あたしだって本当は、居たい。ずっとデュークの傍にいたい。…でも、できない。あたしには帰らなければならない定めがあるから。

あたしは、環は、ずっとこの時を待っていたんだ。今、あたしと環の願いが叶う。そしてデュークの願いも叶う。

それにあたしが傍にいなくてもデュークならきっと幸せになれるから……」


「言わないで!そんなこと、そんなことない!だって俺は!俺は藍羅と一緒にいられたらそれだけで幸せなんだ!だから!」


藍羅先輩は驚いたような顔をしたが、すぐ穏やかで優しい表情をした。