「全てと言われてもね。具体的に言ってくれないと、分からないんだけど。それから」
デューク先輩は彼に一歩詰め寄った。
「そこを退いてくれるかな。俺は、願いを叶えないといけないんだ。そのために彼女を……」
「それが間違いだと言っているのです」
環と呼ばれた彼はデューク先輩の言葉を遮った。
「彼女を殺してはならない。彼女を殺せば貴方の願いは叶えられなくなる」
「…どういうことかな。歌姫の心臓を打ち抜けば願いが叶うと、月読は確かにそう予言した」
「月読とやらの予言は正しい。しかし貴方の解釈が間違っているのです」
「俺がどう間違えたというのかな。一体…」
「一体、何をしている」
地の底から這い上がるような、低い声が聞こえた。
デューク先輩も、環と呼ばれた彼も、みんなが驚き一斉にその声の発生源を見た。
「……旦那様」
「デューク、これはどういうことだ」
全身真っ黒な服に身を包んだその男はゆっくりとした歩きでこちらに向かってくる。
「お前が望んだ通りの人数を用意したのに、どうして未だ願いを叶えていない」
デューク先輩はその声の主の方へと跪いた。
「……申し訳ありません。少々手こずっております」
その声は、今心の中に存在している全ての感情に蓋をして、心を閉ざしているように、感情がほとんどなかった。
少し残った感情は、恐怖、それだけ。
「…お前自身が月読の夢を垣間見、自分ならできるとお前がそう申したからこそ、私もお前を信じ、期待したというのに」
客席の方から現れた彼は、客席からステージへと続く階段をゆっくりと登った。
「期待した価値もなかったか」
彼はその言葉と共にライトの下へ現れた。
吐き捨てるような言葉が、静かなホールに響く。
デューク先輩は跪いて下を向いたまま、決して顔を上げなかった。
ギリっと奥歯を強く噛んで、沸き起こる感情を押し殺しているようだった。
「もういい。お前の出番は終わりだ。下がっていろ。こんな仕事もできないとは、がっかりだ。お前の処遇も決定次第、それに従ってもらう。異論はないな」
「…旦那様の仰せのままに」
そして旦那様と呼ばれた彼は、私たちの方を見た。
夜の闇よりずっと深く、暗く、冷たい黄金の色をした目だった。
その目から逸らせば殺されてしまうような、鋭い視線だった。恐怖を感じた。
「……貴方も、竹取会なんですか」
震えないように拳を強く握って、私は問うた。
「あぁ、そうだ。私が、竹取会のトップ。旦那と呼ばれる存在」
彼は黒い短髪で、黒い着物のようなものの上に黒い羽織りを羽織っていた。
髪から服から真っ黒だが、ただ、その瞳だけは宝石のような美しい黄金だった。
それはディナちゃんの病室に飾ってあった家族写真のお父さんと同じだった。
旦那様と呼ばれたことからも、彼がデューク先輩とディナちゃんの父親であることはすぐに分かった。
写真の中の彼はもっと優しい雰囲気だったのに、今彼がまとうその雰囲気は、冷たくて恐ろしかった。
彼を構成する全てが恐ろしくて、身動きなんて取れないと思ったけれど、勇気を振り絞って私は問うた。
「貴方の願いは何なんですか」
私の問いに、彼は口の右端だけを少しあげた。
「我が願いか? 我が願いは世界の頂点に立ちこの世を統率すること。このくだらぬ世界をな」
すると彼は妙に優しい声をで私に聞いた。
「この世はくだらぬと思わぬか?」
あまりにも突然で、何を問われたのか、一瞬分からなかった。
…くだらない?
この世界が?
そんなこと微塵も思わない。
みんなのいるこの世界が、くだらないわけがない。
私にとってこの世は、大切な人がいる、大好きな場所だ。
くだらないなんて、思おうと思っても思えない。
しかし彼は問うたにも関わらず、私たちが答えるその前に言葉を続けた。
「取るに足らない些細な違いのせいで差別され、救われるべき命は、最初からなかったかのように見捨てられる」
本当にくだらない世界だと彼は吐き捨てるように言った。
「他の人間には使えぬ能力がある。たったそれだけ。たったそれだけの理由で、あいつは…!」
怒りと悲しみが混ざった、苦しい感情によって吐き出された言葉がホールに響く。
「人と違う力がある。それのどこがおかしい?何故差別されなければならない?私もあいつも、何一つ害を与えたことはなかった!なぜ力があるというそれだけの理由で、あいつは救われなかった?!なぜ私はあいつを喪わなければならなかった?!ただそれだけの理由で!」
狂っている、彼は掠れた声でそう言った。
「狂っている、この世も、人間も。自分達と違うというだけですぐ差別をする。理由は分かるか?奴らがくだらないからだ。考え方も、何もかもが。
だから私が、くだらぬ人間の代わりにこの世の頂点に立つのだ。くだらぬ考えや差別が世に蔓延らないよう、私が統率するのだ。それこそが正しい世界のあり方」
デューク先輩は彼に一歩詰め寄った。
「そこを退いてくれるかな。俺は、願いを叶えないといけないんだ。そのために彼女を……」
「それが間違いだと言っているのです」
環と呼ばれた彼はデューク先輩の言葉を遮った。
「彼女を殺してはならない。彼女を殺せば貴方の願いは叶えられなくなる」
「…どういうことかな。歌姫の心臓を打ち抜けば願いが叶うと、月読は確かにそう予言した」
「月読とやらの予言は正しい。しかし貴方の解釈が間違っているのです」
「俺がどう間違えたというのかな。一体…」
「一体、何をしている」
地の底から這い上がるような、低い声が聞こえた。
デューク先輩も、環と呼ばれた彼も、みんなが驚き一斉にその声の発生源を見た。
「……旦那様」
「デューク、これはどういうことだ」
全身真っ黒な服に身を包んだその男はゆっくりとした歩きでこちらに向かってくる。
「お前が望んだ通りの人数を用意したのに、どうして未だ願いを叶えていない」
デューク先輩はその声の主の方へと跪いた。
「……申し訳ありません。少々手こずっております」
その声は、今心の中に存在している全ての感情に蓋をして、心を閉ざしているように、感情がほとんどなかった。
少し残った感情は、恐怖、それだけ。
「…お前自身が月読の夢を垣間見、自分ならできるとお前がそう申したからこそ、私もお前を信じ、期待したというのに」
客席の方から現れた彼は、客席からステージへと続く階段をゆっくりと登った。
「期待した価値もなかったか」
彼はその言葉と共にライトの下へ現れた。
吐き捨てるような言葉が、静かなホールに響く。
デューク先輩は跪いて下を向いたまま、決して顔を上げなかった。
ギリっと奥歯を強く噛んで、沸き起こる感情を押し殺しているようだった。
「もういい。お前の出番は終わりだ。下がっていろ。こんな仕事もできないとは、がっかりだ。お前の処遇も決定次第、それに従ってもらう。異論はないな」
「…旦那様の仰せのままに」
そして旦那様と呼ばれた彼は、私たちの方を見た。
夜の闇よりずっと深く、暗く、冷たい黄金の色をした目だった。
その目から逸らせば殺されてしまうような、鋭い視線だった。恐怖を感じた。
「……貴方も、竹取会なんですか」
震えないように拳を強く握って、私は問うた。
「あぁ、そうだ。私が、竹取会のトップ。旦那と呼ばれる存在」
彼は黒い短髪で、黒い着物のようなものの上に黒い羽織りを羽織っていた。
髪から服から真っ黒だが、ただ、その瞳だけは宝石のような美しい黄金だった。
それはディナちゃんの病室に飾ってあった家族写真のお父さんと同じだった。
旦那様と呼ばれたことからも、彼がデューク先輩とディナちゃんの父親であることはすぐに分かった。
写真の中の彼はもっと優しい雰囲気だったのに、今彼がまとうその雰囲気は、冷たくて恐ろしかった。
彼を構成する全てが恐ろしくて、身動きなんて取れないと思ったけれど、勇気を振り絞って私は問うた。
「貴方の願いは何なんですか」
私の問いに、彼は口の右端だけを少しあげた。
「我が願いか? 我が願いは世界の頂点に立ちこの世を統率すること。このくだらぬ世界をな」
すると彼は妙に優しい声をで私に聞いた。
「この世はくだらぬと思わぬか?」
あまりにも突然で、何を問われたのか、一瞬分からなかった。
…くだらない?
この世界が?
そんなこと微塵も思わない。
みんなのいるこの世界が、くだらないわけがない。
私にとってこの世は、大切な人がいる、大好きな場所だ。
くだらないなんて、思おうと思っても思えない。
しかし彼は問うたにも関わらず、私たちが答えるその前に言葉を続けた。
「取るに足らない些細な違いのせいで差別され、救われるべき命は、最初からなかったかのように見捨てられる」
本当にくだらない世界だと彼は吐き捨てるように言った。
「他の人間には使えぬ能力がある。たったそれだけ。たったそれだけの理由で、あいつは…!」
怒りと悲しみが混ざった、苦しい感情によって吐き出された言葉がホールに響く。
「人と違う力がある。それのどこがおかしい?何故差別されなければならない?私もあいつも、何一つ害を与えたことはなかった!なぜ力があるというそれだけの理由で、あいつは救われなかった?!なぜ私はあいつを喪わなければならなかった?!ただそれだけの理由で!」
狂っている、彼は掠れた声でそう言った。
「狂っている、この世も、人間も。自分達と違うというだけですぐ差別をする。理由は分かるか?奴らがくだらないからだ。考え方も、何もかもが。
だから私が、くだらぬ人間の代わりにこの世の頂点に立つのだ。くだらぬ考えや差別が世に蔓延らないよう、私が統率するのだ。それこそが正しい世界のあり方」


