天使のアリア––翼の記憶––


「ディナちゃん?!」




病院で会った、あのディナちゃんだった。


「あ、つきこおねーちゃん!」


息を上げながら、こんにちはと可愛らしい笑顔で挨拶をしてくれた。


「つきこおねえちゃん、タマをみなかった?さっきまでいっしょにいたの」

「た、タマ?」

首を傾げると、彼女は言った。

「タマだよ!いつもわたしといっしょにあそんでる、しろいうさぎのタマだよ!ステージのほうにはしっていっちゃったの。どこにいっちゃったんだろう?ねえ、つきこおねえちゃん、しらない?」

キョロキョロと辺りを見渡している。





「どうして、ここに」




掠れた低い声が聞こえた。

それはデューク先輩のものだった。


「どうして、ここにいるの。病院から抜け出してきたら駄目だってあれほど言っていたのに。お医者さんも看護婦さんも、今ごろきっとみんながすごく心配している。どうしてこんなところまで来たの」


ディナちゃんはデューク先輩の元に走って行った。

デューク先輩はしゃがんでディナちゃんを抱きとめた。


「ごめんなさい。でも、タマをおいかけてきたら、ここについたの」


罰が悪そうな顔をして、ディナちゃんは謝った。


「タマを追いかけて…あぁ、そういうこと。まさかと思っていたけど、君があのウサギのタマなんだね。いつもディナと遊んでくれてありがとう」


私は驚きを隠せなかった。

先輩の言っている意味が分からない。

だって兎のタマは兎であって、人間ではない。

いや、そもそも、この人は人間か?

頭が軽いパニックを引き起こしている私をそっちのけで、デューク先輩と環と呼ばれた人は話を続けていた。

環と呼ばれた黄金の目のあの人は首を横に振った。

「やはり貴方には気付かれましたか。とはいえ、私は何もしておりませんので」

「おにいちゃん、なにをいってるの?このひとはタマじゃないよ。タマはウサギだよ?」

「あぁ、そうだね」

「へんなおにいちゃん」

不思議そうな顔をするディナちゃんと、眉を下げて微笑むデューク先輩。

私はハッとした。