天使のアリア––翼の記憶––

「え?」

「何、あれ…」


七星先輩も、北斗先輩も、驚いた顔をしている。


「あれは…」

「…兎ー?」

首を傾げる私と乙葉にウサギが不機嫌そうな顔をする。

「俺じゃねえよ」

「知ってるってば!あれは小動物の…」


そう、小動物の兎。

兎が走りこんできたのだ。

赤ではなくて、黄金の瞳の兎。

それも、凄まじいスピードだ。


「どうして兎がこんなところに?」

「知るかよ、それよりあんなところに走りこんだら…」


死ぬんじゃないか。


ウサギは最期まで言わなかったけれど、言おうとしたことは分かっていた。


藍羅先輩とデューク先輩の間に走りこんできた小さな白い物体は、徐々に大きくなって、藍羅先輩の目の前に来た時には先輩を庇うように手を広げていた。


「…君は、何者かな?」


デューク先輩は走りこんできた"彼"を鋭く睨みつけた。

彼、というのは理由がる。

走りこんできたあの兎は、今はなぜか人間の男性の姿をしているのだ。

肩のところでまっすぐ切りそろえられたストレートの金髪に、真っ白な肌。

瞳は黄金で、まるで夜に浮かぶ月のようだった。

白いタキシードを着ていて、表情はほぼなく、年齢は正確には分からないが、若いと思う。

男性、というよりも、中性的な美しい顔立ちだ。



「お怪我はありませんか?」



走りこんできた彼はというと、周りの注目など我関せずと後ろにいる藍羅先輩に尋ねている。


「あぁ、助かったよ。お前のおかげだ」


藍羅先輩は少し微笑んだ。


「ありがとう、環(たまき)」


環と呼ばれた彼は藍羅先輩に微笑むと、デューク先輩を睨みつけた。


「君は…兎なのかな?それとも人間なのかな?」


デューク先輩は言った。


「貴方はもう分かっているのでしょう」


すっと立ち上がって、デューク先輩を見降ろした。



「それから、貴方は酷い勘違いをなさっている」



彼は眉を潜めて嘆かわしそうにそう言った。



「この方に怪我をさせたら許しませんよ」



そして、ぎりっとデューク先輩を睨みつける。



「…上等だね」


険悪なムードが立ち込める中、声が聞こえた。








「タマー!まってー!」






客席から聞こえたその声は、幼い女の子のものだった。

クリーム色の髪の毛。

ぱっちりと大きな目と、宝石みたいな青と黄金の瞳。

まるで天使のようにとても可愛らしい彼女には見覚えがあった。