天使のアリア––翼の記憶––

私は驚いて声も出せなかった。


母の言葉が蘇る。


歌姫は素晴らしい歌声を持っている。

そして、私の近くにいる。


…単純に考えれば、藍羅先輩だと分かっただろうに。

認めたくないと思う気持ちがきっとその思考を排除していたのかもしれない。

だって、今だって、デューク先輩の言葉を信じたくない。


「…教えてもらったからな、あいつに」


無情にも藍羅先輩はその言葉に肯定した。

信じたくない。

信じたくなかった。

だって、藍羅先輩が天使の歌姫だなんて、そんなこと。


教えてもらったって、誰に?

誰がそれを知っていて、藍羅先輩に教えたんだろう。


たくさんの"分からない"が、脳を、思考回路を、いっぱいにする。



「藍羅は、気づいていたのね…」


七星先輩は切なそうな顔をしていた。

私は、まさかと思っていた問いを七瀬先輩に投げかけた。


「七星先輩は、分かっていたんですか? 藍羅先輩が歌姫だって」


先輩は遠慮がちに頷いた。

ハッとして、ウサギと乙葉の方を見る。


「ウサギも乙葉も、分かっていたの?分かってたのに、私に隠していたの?」

すると二人は罰の悪そうな顔をして、ゆっくり頷いた。

「どうして、どうして言ってくれなかったの? どうして…」


私だけ、仲間外れ。

そんなの、寂しい。

そんなに私は信頼されていないの?

不意に絶望に似た孤独感が全身を駆け抜けた。


「ごめんな、月子。俺達だって気づいたのはあの演奏会の時だったんだ。それに確証がなかった。間違っているかもしれないと何度も思った」


「確証を得るまでは秘密にしようって話をしていたのー。それで、七星先輩達にも色々と聞いて、ようやく歌姫が誰なのか分かったのー」


「だけど、秘密にしていたのは、いや、言えなかったのは、お前に負担がかかると考えたからだ。

お前は藍羅先輩と一緒にいる時間が誰よりも長い。藍羅先輩の正体を言えば、お前はきっと常に竹取会を意識して生活せざるを得なかっただろう。常に竹取会に気を配って生活するのはあまりに大変だ。だから言わない方が良いと皆で判断したんだ」


2人とも罪悪感に満ちた顔をしてごめんと謝る。


「そんなことが…」


私は呆然とした。

また、気づかないうちに、みんなから守られていた。

未来を夢で見ることもままならない、半人前な夢巫女である私を、みんなは必死に守ってくれていた。

私は頭を下げたままの彼らの手を握った。