天使のアリア––翼の記憶––

そして私に向かって手をかざした。目をカッと見開くと、黄金の瞳が輝きだしたように見えた。

すると、私の体はふわりと宙に浮いてしまった。


「なっ!?」


驚く私をよそに、先輩は淡々と言った。


「誰にも邪魔されたくないんだ」


かざした手を右の方へ動かすと、宙に浮いた私もそちらの方へと移動する。

デューク先輩はうざったい小虫を払うようにその手を右に動かした。

私もそれに連動して速い速度で空中を移動する。

壁にぶつかると目を閉じた時だった。


「月子!」

「月子ちゃん!」


ちょうどそちらにはウサギや乙葉、七星先輩や北斗先輩がいて、凄い速さで移動してきた私を受け止めてくれた。


「怪我してない!?」


乙葉が血相を変えて尋ねる。


「だ、大丈夫…」

皆さんがいたから私は怪我せずに済んだけれど、もし皆がいなかったら、私はどうなっていただろう。

皆の向こうにある、豪華な木目調の壁を見つめた。

もし、皆さんがいなかったら、私はこの壁にぶつかって、倒れて、きっと、怪我をしていただろう。

そう思うと怖くて少し身震いした。


"俺は月子ちゃん達を怪我させることだって、厭わない"。


先輩の言葉が本当だったと知る。



デューク先輩がまた一歩藍羅先輩に近づく。


「……藍羅」


彼の目は、藍羅先輩だけを見ていた。


「藍羅、俺、君に話したいことがたくさんあるんだ」


そう言って少し微笑んだ。

眉を下げて、申し訳なさそうに。

なんだかそれが、すごく儚く見えた。


「…あたしも、話したいことがある」


藍羅先輩も微笑んだ。

いつもなら照れて顔を真っ赤にしてツンデレを発揮して、決してデューク先輩に微笑んだりしない。


その藍羅先輩が、微笑んでいるなんて。

私は目の前のことが信じられなかった。


「…あたしから話してもいいかな?」


デューク先輩はどうぞと微笑んだ。


「珍しいね、藍羅が照れないなんて」


デューク先輩は少し驚いたような穏やかな微笑みを浮かべた。

藍羅先輩は少し考えるようなそぶりをした。


「そうかも」


そして微笑んだ。