天使のアリア––翼の記憶––

ステージライトに照らされた埃が舞う中、デューク先輩は言った。


「七星、水遊びは楽しかった?」


そして、いつものように微笑む。

七星先輩のあの攻撃を水遊びと言い切るデューク先輩に驚きを隠せない。

きっと七星先輩を挑発する言葉だと思うが、そんなことで挑発に乗ってしまう七星先輩ではないことは知っていた。


「貴方こそ、壁を引きちぎるのは楽しかったのかしら?」


七星先輩も微笑んだ。


…2人の微笑みは美しくて、恐ろしい。


七星先輩はそっと杖を持ち上げた。


「まだやるつもり?止めなよ、七星は俺に勝てない」


「あら、そんなこと、やってみなくちゃ分からないでしょう?」


七星先輩は余裕たっぷりな笑みを浮かべていた。


「どうかな」


デューク先輩は嘲るように笑った。


「まぁ、君がその気なら、少しくらい遊びに付き合ってあげてもいいよ?」


「遊びかどうか、見てから言いなさい」


七星先輩はまた杖を振り上げた。

先ほどデューク先輩が盾として使った反響板の破片がすうっと意志を持ったかのように立ち上がった。

そして杖の先をデューク先輩の方に向けて、七星先輩は叫ぶ。


「"ショット"!」


木片はまるで弾丸のようにデューク先輩の元へと一直線に飛んでいく。

その速さは凄まじく、シュッと空気を切り裂く音さえ聞こえるほどだった。

あまりのスピードに超能力を使って防御できなかったのか、デューク先輩は腕で顔を覆って防御にでた。

弾丸と化した鋭利な木片はデューク先輩の衣服や皮膚を容赦なく切った。


「…へぇ。なかなかやるね」


衣服はボロボロ、あちこちから血を滲ませて、デューク先輩は薄く笑った。


「どう?まだ遊び足りない?」


七星先輩は腕を組んで不敵の笑みを浮かべる。

デューク先輩は薄く笑うだけだった。



「遊びはもう終わりだ」



掠れた低い声が聞こえた。

デューク先輩は足元に手をかざす。そして少し力を入れると、私と藍羅先輩、デューク先輩を除く、ステージにいる皆がステージの端へ吹き飛ばされた。

倒れていたデューク先輩の仲間も皆吹き飛ばされている。


「みんな!」


ドンと人が壁にぶつかる鈍い音とともに、みんなが倒れていく。

その姿を見ていることしかできない自分の無力さが歯痒かった。

それに、人間であるウサギと乙葉ならともかく 、あんなにも強い魔法使いである七星先輩と北斗先輩までもが吹き飛ばされるなんて思ってもいなかった。

竹取会の若旦那はとんでもなく強いエスパーだと、以前先輩が教えてくれた。

私はこの光景を見て言葉を思い出した。

正しく最強だと思った。

敵も味方もなく攻撃をしたデューク先輩に驚いたが、それ以上に、彼に表情がないことも驚きだった。


そして不意に、シュル、と何かが解ける音がしてハッと辺りを見渡すよりも先に視界が鮮明になって、一体どうしたのかと思うと七星先輩が張ってくれたシールドが解けていた。

シールドは空気に馴染むように消えた。

思わず身構える私をよそに、デューク先輩はゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。