天使のアリア––翼の記憶––


「思わない」

「あら、よく分かっているじゃない」


そして七星先輩は杖を振り上げた。


「貴方は願いを叶えるためならどんなこともすると、私達を傷つけることだって厭わないと言ったわね。けれど、それは私と北斗だって同じ。

依頼遂行が私と北斗の絶対優先事項。その障害となるものは全て排除するわ。

例えそれが、デューク、貴方でもね」


デューク先輩は口の端をあげて嘲笑した。

「へぇ、それは楽しみだね」

できることならやってみろ、とでも言いたそうな感じだった。

「あら、随分と余裕ね?」

挑発的な七星先輩の問いにも、デューク先輩は頷いた。

「俺が負けるわけないからね」

「…あまり調子に乗っていると痛い目見るわよ?」

「…その言葉、そのまま七星にお返しするよ」

表面上の言葉は穏やかだけど、確実に険悪なムードが高まっている。

「"ウォーター"!」

七星先輩が杖を振り上げて叫ぶと、どこからか現れた水が、まるで消防車のホースから放出される水のように勢いよくデューク先輩に向かっていく。

デューク先輩は焦る表情も見せずに、左に手を向けて何かを引っ張り出すような仕草をした。

その時右眼が黄金に輝いているように見えた。

一瞬のことだったけれど。

間も無くペキペキと何かが剥がれる音と、ゴゴゴと地響きのような音が聞こえて、私は大きな影に覆われた。

何事かと見上げると、私は息を飲んだ。

「…は、反響板が…」

反響板とは、ステージ上に設置される、音を反響させより響かせるなどの効果をもたらす板のこと。

可動式のものもあるが、このホールの反響板は固定式。反響板の一部が開閉式になっていて、そこから舞台へ出入りさせることができる。

その出入り口部分が切り取られ、舞台を物凄い速さで移動していた。

そしてそれはデューク先輩の前に来ると止まり、デューク先輩を水から守る盾となった。

あたりに水が飛び散り、あちこちに水たまりを作る。

そして七星先輩の攻撃が止むと同時に、デューク先輩は超能力で浮かせていた反響板をステージに無造作に置いた。

ドゴンと重いものが勢いよく落ちる音が響き渡り、埃が舞う。

ステージに落とされた反響板はバキバキと嫌な音を立てて砕けた。

ステージのあちこちにあった水は、蒸発するように、フェードアウトするように、すうっと消えた。

理由は分からないが、きっと七星先輩が魔法で作り出した水だからだろうと思う。