「言ったよね、月子ちゃん。俺には絶対に叶えたい、叶えなくちゃいけない願いがあると。必ず歌姫を手に入れると。
願いが叶うためなら、歌姫を手に入れるためなら、俺はどんな卑怯で残酷な手段だって選ばないよ」
そして彼は手を広げた。
「今手を引くなら月子ちゃん達になんの危害も与えない。必ず約束するよ。俺だって、君達に好き好んで痛い思いはさせたくないからね。さあ、手を引くなら今だよ」
デューク先輩は少しだけ眉を下げて、哀れむようにそんなことを言う。
「…何を、今更」
ふざけた事を言うのも大概にしてほしい。
「今更、手を引くわけがないでしょう。私の、私達の決意は揺らがない。絶対、貴方に、竹取会なんかに願いなんて叶えさせない!」
じっと先輩の黒い瞳を見つめると、先輩はフッと笑った。
「本当に月子ちゃんは面白いね。今手を引けば痛い思いをせずにいられたのに、勿体ない。まぁ、手を引けって言われて簡単に引手をくような人物じゃないとは思っていたけど」
そして先輩は真顔になった。
黒の瞳も熱を失ったかのように冷たかった。まるで夜の闇が訪れたように。
「…もう俺は、優しくはないよ。
願いを叶える、歌姫を手に入れる、そのためなら、どんな卑怯で残酷な手段だって選ばない。そのためなら月子ちゃん達に怪我させることだって厭わない」
そして先輩は一歩前に足を踏み出した。
コツッと靴音がホールに響く。
「…殺すことだって、厭わないよ」
温度のない言葉に緊張感が走る。
「さぁ、そこをどいてくれるかな」
デューク先輩が歩くたびに、コツコツと靴音がホールに響く。
「嫌です!」
ぐっと拳を握った。
声は決して大きいわけじゃなかったけれど、それでも目だけは逸らさないで言った。
その闇みたいに暗い瞳を、睨みつけるように見つめた。
瞳の奥にきっと、学校でいつも見ていたあの爽やかで優しい顔をして笑う先輩がいると信じて。
「じゃあ力尽くでどいてもらうよ」
先輩の声は、表情は、至極冷静だった。


