天使のアリア––翼の記憶––

「な…なんですか、それ…先輩の名前は、日向デュークでしょう?」

訳も分からず問いかける私に、デューク先輩は笑った。

「あはは、月子ちゃんて本当に面白いよね。あれは偽名だよ、偽名。本名を名乗っていたらすぐに俺の正体がバレてしまうからね。そういうわけで、本名はこっちなんだ。

改めてよろしくね、夢巫女の華原月子ちゃん」


わざと夢巫女というのを強調するようにデューク先輩は言った。

私はギュッと拳を握った。

どうして気づかずにいたんだろう。こんなにも敵は近くにいたのに、どうして。

あぁ、自分が恨めしい。気づかずにのほほんと過ごしていた自分が。


「そういうわけだから。俺は天使の歌姫がほしいんだ。叶えたい願いがあるからね」

「絶対…渡さない! 竹取会になんて、絶対渡さない!」

声の限り叫んだ。


母が予言を遺した。

天使の歌姫を還さなければならないと。

そうしなければ争いが起こるからと。

そんなの嫌だから。

その戦いに私の大事な人達が巻き込まれるのは嫌だから。

絶対、還すんだ。


「私達は歌姫を還す!そして争いを退ける!」


叫ぶ私をからかうように、デューク先輩は笑った。


「"歌姫の心を打ち抜いた者は願いを叶えられる"。"歌姫を還さなければ、争いが起こる"。

月子ちゃんは、月読の遺した予言のことを言っているのかな?」


「ど、どうしてそれを!?」


戸惑う私を無視するようにデューク先輩は言葉を紡いでいく。


「月子ちゃんは勘違いをしている。月読が言っていた争いは、歌姫を巡る争いのこと。つまり俺達竹取会と月子ちゃん達との戦いってことだ。

月読は月子ちゃんの母親だ。月読はきっと、月子ちゃんがその争いに巻き込まれることも夢で知って、月子ちゃんをその争いから何としてでも退けなければと考えて、そう言ったんだろうね。彼女はとても優しい人だったから」


デューク先輩は思い出を懐かしむような優しい顔をした。


「どうして知ったような口調で月読様のことを語る!?どうして月読様が私の母親だなんていうの!?」


私はほとんど叫んでいた。

怒りと悲しみとが増幅していく。

心の中で膨れ上がって原型をとどめていない。

感情が制御できず、ウサギと乙葉が私の肩を抑えて私を止めてくれなければデューク先輩の胸ぐらを掴んでいただろう。

そんな私を哀れむかのような目をしているデューク先輩。

その目さえ、私の怒りの原因となる。