天使のアリア––翼の記憶––

「な、なに? どうしたの?」

デューク先輩は驚いたような、戸惑っているような、そんな表情をしている。


「あたし…デュークに言いたいことがあるんだ」


先輩はデューク先輩を見たまま、自分の手をぎゅっと握った。


「あたし、デュークが…」

「ごめんね、藍羅」


デューク先輩は藍羅先輩の言葉を遮った。


「ごめんね、藍羅の話を遮ってしまってごめんね。だけど、先に俺の話を聞いてほしいんだ」

「デュークの話って何?」

「…あのね…」

少し憂うような微笑みの仮面を身につけた彼は、至極冷静な口調で言葉を続けた。



自分には時間がない、と。



言葉は空間に響くと空気に馴染むようにそっと消えた。


「え…?」


戸惑うか細い声は、悲しみを灯した藍羅先輩のもの。

私も混乱していた。

時間がないって、どういうこと?

それってデューク先輩がもうじき死ぬってこと?

デューク先輩、病気なの?

元気そうな顔をしていたのに、まさか隠してたの?

様々な憶測が頭の中で飛び交う。


「…病気、なのか…?」


藍羅先輩の問いに、デューク先輩は首を横に振った。病気ではないし、死ぬわけじゃないよ、と微笑む。

けれど彼の顔はすぐに暗くなった。

「…病気ではないけど、俺にはもう、時間がないんだ。もうこれから藍羅と一緒にいられなくなる。だからね、藍羅」


デューク先輩はそう言って目を閉じた。

言いようもないひっそりとした緊張感のある沈黙が訪れる。


しばらく経って先輩はそっと目を開いた。


そして重たい口を開いて出てきた言の葉は。






「…さよなら、しよう」





なんて冷たくて、なんて恐ろしいのだろう。


デューク先輩は切ないような苦しような笑顔をしていた。

デューク先輩の発した言葉がデューク先輩自身の心を傷つけているようにも見えた。

その笑顔を見ているだけで辛くなった。