「どうして今衣装を着ているのですか?」
私は尋ねた。
これから行われるのはゲネプロだ。本番の格好をする必要は無い。
先輩は今までの演奏会ではリハーサルやゲネプロの時、本番と同じ格好することはなかったので私は不思議に思った。
藍羅先輩は笑って言った。
「緊張しているからかな。本番と同じようにやらないと失敗してしまうんじゃないかと思ったんだ」
「…そうですか」
私はそう言ったけれど、藍羅先輩の発言を素直に納得することはできなかった。
だって、いつもの藍羅先輩とは違う。
確実に違う。
ゲネプロで本番の時に着る衣装を着て出るなんてことしなくたって、失敗するような藍羅先輩ではない。
どうして藍羅先輩がこんな時に限ってそんなことをするのか、私にはわからなかった。
藍羅先輩の微笑みがどことなく切ない理由も分からなかった。
「そうそう」
藍羅先輩は思い出したかのように言った。
「今回のゲネプロには、"特別なお客様"がいるんだ」
「特別な、お客様?」
私は首をかしげた。
お客様って、誰だろう。私は何も聞いていない。
藍羅先輩は、始まればわかるよと微笑んだまま答えは教えてくれなかった。
「さあ、始めよう。"お客様"が首を長くして待っている」
納得がいかないなと思いながらも私は楽譜を持って、服は私服のまま、ステージに向おうとした。
その時藍羅先輩が私の名前を呼んだ。
「どうしたんですか?」
すると藍羅先輩は妙に優しい顔をした。
「ありがとう、月子」
「え、な、な、何を今更、こんな時に…」
私は予想外の言葉に動揺を隠しきれなかった。
「月子に伴奏を頼んでから、今まで沢山の演奏会をしてきた。色んな会館も巡ったし、病院でやったときもあった。月子、お前と一緒に演奏ができて、すごく、すごく楽しかった。
月子が伴奏者じゃなかったらきっと、あたしはここまで楽しく歌い続けることはできなかったと思うんだ。今日こうしてこのかぐや会館で演奏会を開けるのも、全部月子のおかげだ。本当に感謝してる。ありがとう」
先輩の言葉に思わず涙が出そうになった。
「そんな…ありがとうなんて私のセリフです。私がこうしてピアノを楽しく弾けるのは、先輩のおかげなんですから。ピアノを弾くことしか能がない私でも、こうして藍羅先輩の役に立つことができて、すごくすごく嬉しいんです。先輩と一緒に演奏ができて、私、幸せなんです」
溢れんばかりの藍羅先輩に対する感謝と尊敬の思いは、口から出したとき、やはりうまく言葉にすることはできなかった。
伝えたいことの半分も言えなかったし、言ったこともうまく伝わっている自信はまるでない。
けれど、それでも、どうしても、感謝の思いを伝えたくて、私は声帯を震わせ続けた。
「月子、ありがとう。あたしの伴奏をしてくれて、ありがとう」
藍羅先輩は私の手をとった。
「今日は、今までで最高の舞台にしよう。今まででいちばん楽しい演奏会にしよう」
そして先輩は微笑んだ。
「今日も、楽しもう」
私も笑顔で応えた。
「私のピアノは先輩のために」
いつものおまじないのような言葉を口にして、私達はステージに向かった。
私は尋ねた。
これから行われるのはゲネプロだ。本番の格好をする必要は無い。
先輩は今までの演奏会ではリハーサルやゲネプロの時、本番と同じ格好することはなかったので私は不思議に思った。
藍羅先輩は笑って言った。
「緊張しているからかな。本番と同じようにやらないと失敗してしまうんじゃないかと思ったんだ」
「…そうですか」
私はそう言ったけれど、藍羅先輩の発言を素直に納得することはできなかった。
だって、いつもの藍羅先輩とは違う。
確実に違う。
ゲネプロで本番の時に着る衣装を着て出るなんてことしなくたって、失敗するような藍羅先輩ではない。
どうして藍羅先輩がこんな時に限ってそんなことをするのか、私にはわからなかった。
藍羅先輩の微笑みがどことなく切ない理由も分からなかった。
「そうそう」
藍羅先輩は思い出したかのように言った。
「今回のゲネプロには、"特別なお客様"がいるんだ」
「特別な、お客様?」
私は首をかしげた。
お客様って、誰だろう。私は何も聞いていない。
藍羅先輩は、始まればわかるよと微笑んだまま答えは教えてくれなかった。
「さあ、始めよう。"お客様"が首を長くして待っている」
納得がいかないなと思いながらも私は楽譜を持って、服は私服のまま、ステージに向おうとした。
その時藍羅先輩が私の名前を呼んだ。
「どうしたんですか?」
すると藍羅先輩は妙に優しい顔をした。
「ありがとう、月子」
「え、な、な、何を今更、こんな時に…」
私は予想外の言葉に動揺を隠しきれなかった。
「月子に伴奏を頼んでから、今まで沢山の演奏会をしてきた。色んな会館も巡ったし、病院でやったときもあった。月子、お前と一緒に演奏ができて、すごく、すごく楽しかった。
月子が伴奏者じゃなかったらきっと、あたしはここまで楽しく歌い続けることはできなかったと思うんだ。今日こうしてこのかぐや会館で演奏会を開けるのも、全部月子のおかげだ。本当に感謝してる。ありがとう」
先輩の言葉に思わず涙が出そうになった。
「そんな…ありがとうなんて私のセリフです。私がこうしてピアノを楽しく弾けるのは、先輩のおかげなんですから。ピアノを弾くことしか能がない私でも、こうして藍羅先輩の役に立つことができて、すごくすごく嬉しいんです。先輩と一緒に演奏ができて、私、幸せなんです」
溢れんばかりの藍羅先輩に対する感謝と尊敬の思いは、口から出したとき、やはりうまく言葉にすることはできなかった。
伝えたいことの半分も言えなかったし、言ったこともうまく伝わっている自信はまるでない。
けれど、それでも、どうしても、感謝の思いを伝えたくて、私は声帯を震わせ続けた。
「月子、ありがとう。あたしの伴奏をしてくれて、ありがとう」
藍羅先輩は私の手をとった。
「今日は、今までで最高の舞台にしよう。今まででいちばん楽しい演奏会にしよう」
そして先輩は微笑んだ。
「今日も、楽しもう」
私も笑顔で応えた。
「私のピアノは先輩のために」
いつものおまじないのような言葉を口にして、私達はステージに向かった。


