「はぁっ!」

私は教室に駆け込んだ。電車に駆け込むサラリーマンさん達といい勝負だと思う。そんな私の目の前にはいつも通りの光景が広がっている。

あぁ、いつも通りの朝だ。どうやら先生はまだ来ていないらしい。教室の時計を見ても、私の腕時計を見ても、ちゃんと朝礼開始の2分前を示している。

時計は昨日、きちんと合わせた。まだまだこの時計さんは働いてくれる。


「間に合った…」


助かった。呟きながら席に着く。ダッシュしたお陰で息が荒い。汗ばんでいないのがせめてもの救いである。


「今日もギリギリか。相変わらず阿呆だな、月子。」


前の席の男の子が話しかけてきた。その名も、宇佐美和兎(うさみ かずと)。このつくづくウサギっぽい名前から、あだ名は当然ウサギ。

近所に住む私の幼馴染の一人で、幼いことから一緒に遊んでいるのだ。しかしいつも私にちょっかいを出してくるという、とても面倒臭い奴でもある。

こんなにも面倒臭いのに、小学校のころから顔が整ってるとか言われちゃって結構モテる。今はバスケ部に所属しているから、そのこともモテる要因の一つなのかも。しかもこいつ、一年生のくせにキャプテンさんより強いし。


こんなにモテる奴だが、好きな人がいるとかいないとかで、告白されても誰とも付き合わないという変わり者なのだ。ただの阿呆だよね。こいつに恋する乙女が可哀想過ぎる。


「今日も、なんて言ったら私がいつも遅刻ギリギリみたいに思われるじゃない!それに私は阿呆じゃない。あんたよりはマシだから!」


ちょっとムッとして反論する。

そりゃ、藍羅先輩みたいに学業において学年トップというわけではないけれど、でも、こいつよりは、マシ。絶対に良いと信じてる!逆に良くなかったらこの世の終わりだと思って良い。


「おい!そこまで言わなくてもいいだろ?大体な、お前は俺のことを一体なんだと思ってるわけ?」

「は?」

そんなの言うまでもないじゃない。


「クラスにいるただの阿呆。」


思ったことをそのまま口にする。嘘はつかない主義でして。

大体、それ以外に一体何があると言うんだ。あ、腐れ縁か!幼馴染か!意外といろいろあるな、なんて呑気に考え事をする。