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「ふぇぇぇええ!?」

私は飛び起きた。びっくりした。驚きのあまり心臓が停止するかと思った。目覚まし時計ってやっぱり心臓に悪い。


あ、おはようございます。華原月子でございます。

朝から自分で設定した目覚まし時計に驚いておりますが、至って普通の高校生です。


何だったんだ、あの夢は…歌を聞くだけの夢、なんてそんなの夢として成立するのだろうか。おばあちゃんに聞いてみようか。いや、ただの夢だろうと言われるだけか。まぁ、いいか。まさか"あの夢"ではあるまいし。


それにしても、あのメロディが耳にこびりついて頭から離れない。


今日はちゃんと起きれたんだ、学校行くまでにはまだ時間がある。もう一度時計を見た。よし、やれる。遅刻はしないだろう。


私は急いで着替えて、ノートと鉛筆を片手に隣の部屋へと向かった。隣の部屋は防音加工がしっかり施されているピアノ部屋。


隣の部屋の襖を開けると、漆黒のグランドピアノ様が鎮座している。様付けしているのは、私がこのピアノのことが大好きだからである。


元々はお母さんの物なのだが、今は私が譲り受けて使わせてもらっているのだ。お母さんが使わなくなってからも保管には気を使っていたらしく、とても良い音を奏でてくれる。


私はそんなピアノ様の譜面台に五線譜ノートを置き、早速夢で聞こえたあの魅惑のメロディを譜面に起こす作業を開始した。忘れないうちに書いてしまいたい。そしてこの曲が誰の作ったものなのか知りたい。


私は分からないが、先輩なら知っているのかもしれない。あれは確かに独唱曲だった。伴奏も裏メロディも、ハモリなど何もなく、確かに歌だけで成り立っていた。


そう言えば、先輩も独唱しか歌わない。合唱は大嫌いだといつか話してくれた。自分の声がかき消されて自分が見えなくなるから嫌なんだと言っていた。


夢で聞いたこの曲はきっとマイナーな曲なのだろう。だからきっと独唱曲にあまり詳しくない私が知らないのだ。


今日学校で先輩にでも聞いてみようか。先輩なら知っているかもしれない。