天使のアリア––翼の記憶––

「ねぇ、私達もウサギの試合、見に行こうかー」

乙葉がニッと可愛らしく笑ってそう言うので、私もついていくことにした。

奴が転んだりしたら、大笑いしてやる。

ひっそりとそんな決意を固めて。


けれど人生、そう上手にいくものではなく。


「なんで、こうなるのよ…」

呟く声は黄色い声援に消えた。

四方をウサギファンに囲まれた乙葉と私。

もう、耳を塞いでいるしか術はなかった。


「「「ウサギくーん!」」」

「「「カッコイイー!」」」


どこが。

ねぇ、どこが!?

"あの"馬鹿ウサギのどこがカッコイイと!?

隣でキャーキャーと到底私には出せないであろう黄色い声援を送り続ける彼女達を横目で見て、はぁ、と溜息を吐いた。

寧ろ私の感覚が可笑しいのか?

いや、そんなはずはない。

乙葉はどう思っているのだろうと思って隣を見ると、

「ウサギ、すごーい!」

両手を握りしめて、食い入るように見つめていた。

優しさと喜びに溢れた、透明な瞳。

何だかすごく自分が嫌な人間に思えてきて私の感覚が可笑しいのだろうかと不安に陥りそうになるが、先ほどのやり取りを思い出して不安を追いやった。

けれど、素直に凄いと思う。

ウサギがいるだけで、チームの士気が上がる。

雰囲気が変わるのが目に見えて分かる。

いるだけで無敵だと思えるほどの存在感と安心感。

凄いと思わずにはいられない。

我らが2組の男子が、落ちてきたボールを拾い上げ、別の仲間がそれをトスで上へと上げると同時に叫んだ。

「ウサギ!」

「任せろ!」

ウサギはこれしかないというタイミングで飛び上がった。

彼は先ほどの仲間の動きを予測していたのか、それとも運動部独自の反射神経なのかは定かではないが、既に攻撃する準備を整えていた。

右手を挙げていて、真剣に見つめる視線の先には先ほど仲間が繋いだボールだけがあった。

そして挙げていた手を凄まじいスピードで振りおろす。

まるでバレー部のエースなのではないかと錯覚するほどの俊敏なアタック。

ウサギのアタックは相手コートに鋭く落ちた。

同時に湧き上がる歓声と黄色い悲鳴。

「すごい、ウサギー!」

乙葉も手を叩いて喜んでいた。

「すごい…」

相も変らぬ黄色い声援を聞きながら、私は呟かずにはいられなかった。

試合終了と同時に、ウサギの周りにチームメイトが集まる。

「やったな、ウサギ!」

「さすがだよ!」

仲間からそう声をかけられているウサギから目が離せなかった。

あんなにもチームの中心となって行動するなど、私には絶対有り得ない。

運動神経のある人はどんなボールだって、どんなルールの下であったって、いとも簡単に、それも器用にこなしてしまうらしい。

球技嫌いな私からしたら羨ましい限りだ。

そのまま試合は2組優位のまま進み、そのまま勝利してしまった。