天使のアリア––翼の記憶––


「乙葉さま、ありがとうございました!」

授業が終わると同時に、私は乙葉に深々と頭を下げた。

乙葉の、いや、乙葉様のおかげで、先生に怒られることもなく無事授業を終えることができた。

勿論当たっていた問題も大きな丸がついている。私が解けばできなかったことだ。

本当に感謝しかない。

「いえいえー、役に立てて良かったよー」

そう言って優しく微笑むものだから、いつまでも甘えてしまう。

その優しさに、暖かさに。


もう自立しなくてはいけないのに。


「乙葉ちゃーん! 科学の教科書持ってない?」

「あるよー!」

隣のクラスの友達に呼ばれた乙葉は廊下に設置してあるロッカーへと飛び出していった。

左右に揺れる髪があまりに綺麗で、本当に同い年かと疑問に思うほどだった。

こりゃ学園中が騒ぐわけだと納得した。

ほら、すぐそこの男子達が早速集まって乙葉の話をし出した。乙葉に変な虫がつかなければいいけれど。

休み時間、教室が騒めく中、決意を固めて私はウサギの名を呼んだ。

「んだよ?」

面倒臭そうにウサギは振り返った。

私がその表情から僅かな緊張を感じ取れたのはきっと、私達が幼馴染だからだろうと思った。

「今日、暇?」

「あ?」

訳が分からないという顔で、ウサギは聞き返す。

「暇、かな?」

握る拳に力が入る。

罪悪感で壊れそうになる心を何とか奮い立たせる。


まだ、泣くわけにはいかないから。

私が泣いては、いけないから。

そう、強く言い聞かせて。


「…暇だけど。まさかお前、明日提出の課題を手伝え、なんて言うんじゃないだろうな? それなら問答無用で断固拒否だ。俺だって終わってねぇんだぞ」

ウサギは息継ぎをすることもなく素早く言いった。真顔である。

そんな彼を見ながら、違うよ、と私は少し笑った。