天使のアリア––翼の記憶––

その後、静まり返った私達の中から笑いが漏れた。

乙葉は目を細めて女の子らしく口元を手で押さえて、ウサギはいつもの向日葵のような笑顔で豪快に笑う。

私もいつも通りの笑い方で笑った。


けれど、どれだけいつも通りを心掛けても、私は心から笑うことはできなかった。


好きなことを言い合って、笑い合える。

こんなに暖かく優しい空間を、私は。

私は…。



「月子ー…?」

その声でハッとした。

「あ、どうかした?」

笑顔を作ってそう尋ねる。

しまった、ぼーっとして話を聞いていなかった。

「どうかした、じゃないでしょー? こっちのセリフだからー」

乙葉が心配そうに私を見つめる。

「どうしたのー?」

「え? 何もないよ?」

「本当にー?」

「本当に」


お願い。もうこれ以上詮索しないで。


決意が、覚悟が、揺らいでしまう。


心の中で祈っていると、乙葉は、ふーんと言った。

「でも何かあったら言うんだよー? そういう約束したもんねー?」

「う、うん!」

そう言いきると私は話題を探した。

何とかしてこのことから彼らの注目を遠ざけなくては。

「そ、そう言えば! 今日の数学の授業、私当たったんだけど、その問題が分かんなくて! 乙葉様、教えてくださいませ!」

手を合わせてお願いする。

そんな私を哀れんでくれたのか、しょうがないなー、と乙葉は眉を下げて言った。

「幼馴染のよしみで教えてあげるー…って、数学、1限目なんだねー。時間がないからノート見せてあげるよー。今日だけ特別だよー?」

そう言って机の中からノートを探し出し、貸してくれた。

「わーい、乙葉、神様!」

そう言って有難く乙葉のノートを拝借すると、私は必死に自分のノートに解答を写した。

…少しだけ、安心しながら。


兎にも角にも、この時の私は自分のことから2人の注目を遠ざけることに必死だった。


だからこの時、自分のことから話題が離れて安心しきっていた私は、ウサギが一言も離さないで黙っていたことに気が付かなかった。