天使のアリア––翼の記憶––



そして、ついにウサギが帰って来る日がやってきた。

灰色の空の下、雨が降る中、愛用の傘を差して、ある一つの決意をしながら学校への道のりを一人歩く。


今日の放課後、言うんだ。

ウサギに、私の気持ちを。


雨は強く冷たく降り注ぎ、学校に着くころには履いてきた靴下はびしょびしょに濡れていていた。


クラスに着くと早速靴下を取り換える。替用の靴下を持ってきて正解だった。

「おはよー、月子ー。あれ、靴下濡れたのー?」

雨で湿度も高いというのにも関わらず髪が一切乱れていない、まるで天使のような美しさを持つ我が親友が言う。

「乙葉、おはよ。そりゃ、雨降ってたもん」

「何だか急に強くなったもんねー」

不安そうに窓の外を眺める。

「どうしたの?」

私が尋ねると、窓の外を祈るように見つめたまま乙葉が言った。

「…まだウサギ来てないんだよねー」

雨に濡れていないといいんだけどー、と乙葉は心配そうだ。

ウサギ、の言葉にドクンと心臓が跳ねる。

落ち着けと心臓に言い聞かせて、私は乙葉に問いかける。

「ま、まぁ、あいつなら雨に濡れてもきっと風邪なんて引かないから大丈夫だよ! ほら、馬鹿は風邪を引かないっていうでしょ?」

ね!と乙葉に笑いかけると、

「…誰が馬鹿だって?」

低い声が聞こえてきた。

どうやら彼は怒っているらしい。

まぁ、怒っても仕方がないのだけれど。

それでも私は気にしないのだけど。

「あ、おはよー、ウサギー!」

乙葉は満面の笑みで微笑んで彼に駆け寄る。

「はよ、乙葉」

「もー、心配したよー? なかなか来ないんだもんー。それに雨に濡れて風邪引くんじゃないかと思ったんだからー!」

「悪いな、心配かけて」

「ほんとだよー」

そう言って親しげに会話する二人はもう、傍から見ればカップルにしか見えない。

頬を膨らませて少し拗ねたような表情をする乙葉も、眉を下げて謝りながら微笑むウサギも、なんだか幸せそうに見えてくるから不思議だ。

幸せオーラが漂っているように見えるのは私だけだろうか。

はぁ、と溜息をついて周りを見た私はぎょっとした。

乙葉ファンの男子達が、ウサギファンの女子達が、彼らを見ながら呆然としていたからだ。


2人が仲良さそうに話しているのが、そんなにショックだったの!?

で、でも、ウサギと乙葉は付き合ってないからね!?

違うからね!?


そう言いたくて、でも、幼馴染二人が仲良さそうに話しているのを見ていると言う気も失せてしまった。

どっちでもいいや、もう。