天使のアリア––翼の記憶––

「僕達が歌姫、手に入れたい理由。
それは、依頼」

「依頼?」

首を傾げていると、七星先輩が教えてくれた。

「いつか話したわね、月子ちゃん。私が、私達が魔女だと教えた時に。ボスの命令で、この世界に来たと。それは、依頼があったからなの」

確かに以前、七星先輩は言っていた。

依頼のために、この世界に来たんだと。

それが、歌姫のためだったなんて…。


「どんな依頼ですか。どんな人が…」


どんな人が、歌姫を欲しがったのだろう。

どんな願いを叶えたかったのだろう。

先輩達に依頼してまで歌姫を手に入れ、そして叶えたい願いとは、なんだったのだろう。

どんな、どんな願いを。


「…歌姫を、還してほしいと、その人は言ったそうよ」


その言葉に、思わず息を呑む。

想像もしていなかったその願いに、驚きを隠せない。


だって、もっと、極悪な願いかと思った。

地球征服、みたいな。

権力がほしい、みたいな。

そんな、自分勝手で周りを顧みない、戦隊モノの悪役が願うような、そんな願いだと思っていたのに。


まさか、そんな願いだったなんて。


「そしてそれを依頼した人物は、名前も姿も分からない。あのボスですら…分からないと言っていたわ」

遠くを見つめるように、先輩は溜息をついた。

「そんなことが…」

「…そのために、来た。異世界に、来た。どんなことがあっても、どんなに危険でも、来ようと思った。依頼を、こなすため。…ボスの、ため」

ボスのため。

そう言った時の北斗先輩の瞳が、少し揺らいだのが見えた。

切なそうに、愛しそうに。

そして一瞬だけ優しい顔をしたのを、私は見逃さなかった。


「先輩…」

そう言うとハッとして、先輩はまた真顔になった。


「何」


冷たい声だった。

一瞬見せた優しさの欠片もないほど。


「い、いえ…」


私は何も言わなかった。


あの優しい顔。

あのいつも表情がない北斗先輩が見せた、一瞬。

あれは、北斗先輩の、見られたくない一瞬だったのかもしれない。

けれど北斗先輩があんなに優しい顔をするんだから、北斗先輩はそのボスさんのことをとても大切に思っているんだな、とそう思った。