天使のアリア––翼の記憶––

「そうかい。それはしょうがないねえ。けれど帰る時暗かったろ?大丈夫だったかい?何もなかったかい?」

「何もないよ。帰りは確かに暗かったけれど、民家がたくさんあるから。それより、藍羅先輩の方が心配だよ。」

「藍羅さんって、あの天使の歌声の?」

私は頷いた。

先輩、大丈夫だったかな?何もないといいんだけど…


「今日も綺麗だったねえ。暗い色も似合うけど、淡い桜色も似合うんだねえ。とっても綺麗だよ。」

目を細めて回想しているおばあちゃん。


ちょ、ちょっと待って。

「おばあちゃん、今日も見に来てくれたの?」

「そうさ。」

さも当然というように頷いている。


「見に来るなんて一言も言ってなかったのに!」

言ってくれたら良かったのに、と口を尖らせた。

見に来ることも言わないなんて家族なのに水臭いなあ。


「言おうとしたんだけどねえ。でも今日は出かける直前までずっと月子は急いでたろ?言おうとしたときにはもう月子は出かけた後だったもんでねえ。それで言えなかったのさ。」


あー、確かに私急いでいました。あれじゃ言うタイミングも逃すはずだ。


「藍羅さんの歌も綺麗だったけど、あんたのピアノも良かったよ。」

おばあちゃんは柔らかく微笑んだ。私はおばあちゃんのこの顔が大好きなんだ。

「本当!?」

大好きな人に褒められるとやっぱり嬉しい。


「本当だとも。頑張ったねえ。なんだか一人で弾いている時よりもずっと綺麗に聞こえたよ。」


『一人で弾いている時よりずっと綺麗に聞こえたよ』

今までのどんな褒め言葉よりも嬉しかった。


「ありがとう。」

私は心から感謝の気持ちを伝えた。