天使のアリア––翼の記憶––

「月子ちゃんだって、願いがあるんでしょう? 歌姫を手にいれたら、叶えたい願いが。そのために手に入れたいのでしょう?」

先輩は言葉を続けた。

「歌姫を手にいれたら一つだけ願いが叶う。それは、どんな願いでも叶えてくれると言われている。そのために、多くの人が狙っている…」

竹取会や、目の前にいる先輩達。

それに私も。

もしかしたら、この他にも私の知らない歌姫を欲する人がいるのかもしれない。

全ては願いを叶えるため。

「さぁ、月子ちゃんにはどんな願いがあるのかしら?」

願い…

私の願いって、何だっけ?

「どんな願いも叶えてくれる歌姫を手に入れたら、何を願うの?」

どんなことでも叶うなら、私は何を願う?

「私は…」

歌姫を手にいれたなら、私は何を願う?


「…私は、何も願いません」


すると七星先輩は目を見開いた。

「何も、願わない?」

「はい、願い事なんてありません」

きっぱりと言い切れる。

「う、嘘はつかないでいいのよ?」

「はい。嘘はついていません。本当に願いなんてないんです」

真っ直ぐ先輩の紅を見据える。

先輩は、信じられない、という顔をしている。

「じゃ、じゃあ、どうして月子ちゃんは歌姫を手に入れたいと思っているの? 願い事もないのに」

手に入れたい理由、それは。

「ただ…還ってほしいから。歌姫に、争いが起こる前に元いた場所へ還ってほしいんです。竹取会が、手に入れる前に。それが母の遺言だから」

母の、月読様の遺言。

その為に私は手に入れたいと思っている。

いや、正確に言えば手に入れたいとは思っていない。

自分の手中に収めようなんて、そんな考えなど持っていない。

争いが起こらなければ、その争いに幼馴染や大切な人達が巻き込まれなければ、それでいい。

それ以外は、何の願いもない。

何も、いらない。

「…そう」

先輩は少し笑ってそう言った。