天使のアリア––翼の記憶––

「あ、あの、先輩、今こんなところにいて大丈夫ですか? 部活中ですよね? だったら、マネージャーさんがいないと、部員の皆さん、困りません?」

すると先輩は笑った。

「大丈夫よ。部員は困ったりしないわ。私の他にもマネージャーはいるんだもの。それに、マネージャーが1人抜けたくらいで動揺する部員たちじゃないわ」

そう言って先輩は笑ったが、説得力はない。

なぜって、七星先輩は美人で有名な先輩だからだ。

そんな先輩が抜けたらやっぱり目立つだろうし、それに七星先輩ファンの部員の皆さんが同様するんじゃないかな、と思ったけれど、それは言わなかった。

「それに、ちょっと先生に用事があったって言えば何の心配もないわ。そう言っておけば後で怒られたりはしないもの」

そう言うと七星先輩は悪戯っぽく笑った。

「それに私、魔法使いだし?」

「…そ、そうですね」

それしか言えなかった。

今私の目の前にいるこの魔法使いは、七星先輩は本気だ。

もし、七星先輩が怒られたりするようなことがあれば、本当に魔法を使う気でいる。

何て恐ろしい先輩だろうか。

ぶるぶると恐怖に震える私をよそに、それよりも、と先輩は言葉を続けた。

「どうしたの、月子ちゃん。何かあったんでしょう?」

「えぇっ? 何もないですよ?」

すると、先輩の目が厳しくなった。

ワインレッドの瞳が鋭くなる。

「そうかしら? 私にはそんな風には見えないんだけど」

「そうですよ、何もないですって。あはは、そんな風に見えました? あ、でも、昨日は今日提出の課題が終わらなくて徹夜してたんで、それで疲れて見えるのかもしれません!」

そう、と先輩は何か言いたそうだったけれど、これについてはそれ以上言わなかった。

「ねぇ、聞いてもいい?」

「何を…」

「どうして、月子ちゃんは歌姫を手に入れようとしているの?」

「え…」

予想外の質問に、言葉が詰まる。

先輩が、私を、まるで憎い敵を見るような目で見つめている。

…殺気さえ、感じるほど。

「…大丈夫よ。誰にも言わないから。それに、願いを持つことは必ずしも欲深いというわけではないもの。人は誰でも一つは願いを持つ者。それは人間も魔法使いも同じ」

先輩はゆっくり語り出した。