天使のアリア––翼の記憶––


放課後になると、一斉にクラスメイト達は部活へと向かう。

どたばたと教室を出て行くざわめきの中で、乙葉が私に聞いた。

「月子ー、今日は練習があるのー?」

練習、とはおそらく藍羅先輩との、ということだろう。

「いや、ないよ」

スクールバッグの中に教科書やらノートやらを入れながら私は答えた。

「先輩、何だか用事があるんだって」

何の用事なのかは聞いていないけど、と付け加える。

元々今日は練習をする日だったのだけど、昼休みに、放課後に急用が入ったと藍羅先輩からの連絡があったため、今日はオフになってしまった。

「そっかー。藍羅先輩忙しいんだねー」

なるほど、と納得したように乙葉が言う。

「そうだね」

本当に忙しい人だ。

いつもは学生をして、家に帰れば家事もこなして、休みの日はコンサートで歌を歌う。

よくあれで身体が持っていると思う。

…急に倒れたりしないと、いいんだけど。

暗くなる思考を停止させるため、私は話題を振った。

「乙葉はこれから部活?」

そうだよー、と乙葉は微笑んだ。

「北斗先輩が休みがちだからねー。今日は何があっても部活に留まらせないとー」

乙葉は笑っているけれど、笑っていなかった。

矛盾しているようにも聞こえるかもしれないが、確かに乙葉は口角をあげて笑っていたのだ。

けれど、その目は、笑っていなかった。

「なんてね」

ふふふ、と乙葉は可愛らしく笑っているが、私には笑えなかった。

「が、頑張ってね」

私は辛うじてそう言った。

「ありがとー」

乙葉はいつも通りのふんわり笑顔で手を振ると、スクールバッグを肩にかけて教室を出て行った。


…乙葉ってたまに怖くなる。

それも、ものすごく。


北斗先輩の無事を祈っている。