天使のアリア––翼の記憶––

前の方では、クラスメイトの一人がウサギに話しかけている。

「ウサギー、バスケ部は明日から遠征なんだって?」

あぁ、とウサギの頷く声が聞こえて、胸がドキリと痛んだ。

けれど、その姿を見ることは、なんだか恥ずかしくてできなくて、私は窓の外を眺めていた。

窓の外はといえば、相変わらず雨が降りそうで降らない、曖昧な曇天だ。

「お前も行くのかよ?」

「あぁ。レギュラーに入れてもらえたし」

ウサギが何でもないことのようにさらっと言うと、クラスメイトは驚いたように大きな声を出した。

「さすがだな、ウサギ! 1年なのにレギュラー入りで、しかも遠征にもついて行けるなんて!」

運が良かっただけだろ、なんてウサギは言っているが、私はそんなことないと思う。

本当に、すごい。

「応援してるぞ!」

クラスメイトの声に、おう、とウサギは元気そうに返していた。


1週間、ウサギがいなくなるのか。

じゃあ、1週間後までに答えを出そう。

そして、それをウサギが返ってきた日に言えばいいじゃないか。

でも、そんなにすぐに応えが出るものなのかな?

いや、1週間って、つまりは7日で、つまりは168時間で、つまりは10080分で、つまりは604800秒だ。

時間はたっぷりあるんだから、大丈夫。答えはちゃんと出るはずだ。

けれど、その中には睡眠時間だって組み込まれている。

本当はもっと時間は少ない。

それなのに、本当に答えが出ると思う?

でも、自信はないけど、これにかけるしかないよね。

でも、答えがでなかったらどうするの?もうこれ以上待たせられないよ?


そんなことをぐるぐると考えていた私に、乙葉が顔を近づけて囁いた。

「ウサギすごいねー!」

「本当だね! 遠征に行けるなんて!」

ウサギの耳に入らないよう、コソっと小さな声で話す。

「ウサギ、練習頑張ってたもんねー!」

喜んでいる乙葉の笑顔が、可愛くてしかたない。

ウサギが遠征に行けるということが、まるで自分のことのように嬉しいんだという感情が、全身からオーラとなってあふれ出ている。

「本当に良かったね」

そう言い合って笑い合った。

人の幸せを自分の幸せだと思い合える、そんな素敵な人と幼馴染でいられて本当に良かったと思った。