あのウサギが、少し笑うだなんて。

この私に向かって、優しく微笑むだなんて…!

あり得ない。あり得ない!

「や、やっぱりウサギ、おかしいよ。どうしたの?」

けれど私の問いには答えてくれなくて。

ウサギの真っ直ぐな瞳に、オドオドとしている私が映り込む。

ウサギの目に映りこんだ私は情けないほど不安そうだった。

「あのさ、ちょっとだけ、いいか?」

ウサギが遠慮がちに聞く。

「え? うん」

質問の意図が分からなくて、首を傾げた。

ウサギは一瞬目を逸らして、再び私を見る。

「あのさ…」

何かを決意したような、強い意志のある瞳。



「俺、ずっと前から月子が好きだった」



「え…?」



思考回路が停止した。

まって、まって、意味が分からない。

「す、好きって…」

友達として、ってことだよね?

そう聞こうとした私の言葉をかき消すように、ウサギは言葉を続けた。



「分かってるだろ」



言葉が詰まった。

その強い瞳が、私を捕らえて離さない。

私はウサギから目を逸らすことができなかった。


「返事はいつでもいい。いつまでも待ってるから」



話はそれだけだから、と言って片手をあげるとウサギは帰っていった。

暗い雨の夜に溶けるようにその姿を消した。