いつの間にか、私より大きくなっていた背中を見つめる。

どんな困難だって乗り越えていけそうな、強い背中。

私を守ってくれる、背中。


私は地面に視線を向けた。

どうして黙ったままなのさ。

何かしゃべってよ。気まずいじゃないか。

さっきまで、普通に話していたのに。軽口だって叩いていたのに。

どうして今は何も話してくれないの。


ウサギが何も話してくれないので、私も何も話さない。

何か話題がないかなとさっきから模索しているけれど、何も見つからない。

さっき助けてくれたことを感謝したいけれど、なんだかそんな雰囲気でもない。

けれど話すこともこれといってない。

ウサギは気まずいとか思ってないのかな?

そう思ってウサギの背中を見つめても答えはなくて。

考えるだけ無駄だと思った。

ウサギのことだ、何も考えていないに違いない。

きっと、そうだ。

そうに違いない。


すると不意にウサギが声をあげた。

「あ、雨だ」

そう言って空を見上げる。

その時私の頬にも、ぽつりと雨粒が落ちてきて、思わず空を見上げた。

夜が近いせいもあるけれど、それでもこの時間帯にしては暗い色をしている空。

そこからポツリ、ポツリと冷たい雨粒が落ちてきて、アスファルトに水玉模様を作る。

「これは止みそうにねぇな」

「そうだね」

どこまでも灰色の雲で覆われている空を見上げる。


「急ごうか……って、もう月子の家だな」

ハッとして前を見れば、私の家の前だった。いつのまに、こんなところまで歩いて来たのだろう。

「きょ、うは、ありがと」

視線を逸らして、なぜか片言で話す私をウサギは笑った。

「ハハ、どういたしまして」

だけどその笑い方はいつもの馬鹿にしたような感じではなくて、何だか優しさに溢れていた。

ウサギのいつもとは違う雰囲気に少し戸惑う。

何か、あったのだろうか。そうとしか考えられない。

「ど、どうしたの? なんか、ウサギ、いつもと雰囲気が違うね?」

当たり障りのないように質問すると、ウサギは少し驚いたような顔をして、すぐに「そんな風に見える?」と言って少し笑った。