天使のアリア––翼の記憶––

「今日の水月(すいげつ)も切れ味抜群のいい子だったねー!」

乙葉は目を細めて微笑んだ。

っていうか、刀に対していい子っていうの、どうかと思うけど…。


ついていけない私をよそに、ありがとう、とウサギは笑った。

「こいつは俺の相棒だから」

すごく優しそうな顔で刀を見つめる。

いつも『馬鹿月子』と人を小馬鹿にする顔をしているイメージしかなかったから、何だか不思議な感じがした。

不意をつかれたような、そんな感じ。

ウサギも、こんな優しい顔をするんだ。

「もう辺りも暗いからー早く帰ったほうがいいと思うよー? また危険な目に合ったら大変だしー。だからウサギー、月子を送ってあげてねー?」

「そうだな」

「いや、別に送ってもらわなくても大丈夫だよ?」

乙葉の家から私の家まで、そんなに距離はない。すぐそこだもんね。

そう思って家の方を見ると、ウチの家の瓦屋根が見えた。

危険を感じても、走って逃げきれると思うけど。

「可愛くねーなー。素直に送ってもらえばいいものを」

「悪かったわね、可愛くなくて!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてー。ウチの家の前で喧嘩はやめてよー」

そう言われて、ハッとした私とウサギ。

こういうところは子供っぽいよなと自分でも思う。

「今日は本当にありがとう」

私がそういうと乙葉は微笑み返してくれた。「幼馴染だもん、当たり前でしょー」と言ってくれた。

「じゃあな」

「また明日ねー」

手を振りあって、乙葉と別れた。





私の数歩前を歩くウサギ。

その後ろを歩く私。


…気まずい。

どうしてこうも気まずいんだろう。

さっきまで、ついさっきまで、乙葉と一緒の時はそんなこと感じなかったのに。

どうして、ウサギは何も話してくれないんだろう。

そんなに私と一緒に帰るのが嫌だったのだろうか。

それなら乙葉と別れたとき、ウサギもそのまま家に帰ればよかったのに。

私を送らなければよかったのに。