天使のアリア––翼の記憶––

「…それに、命、取る、怒られる」

ふぅ、と溜息をついた北斗先輩に、七星先輩が笑った。

「あの方に怒られるのは避けたいわね」

懐かしそうに、切なそうに、愛しそうに目を細める七星先輩の瞳から、目を離せなかった。

こんなにも堂々と、生き生きとしているのに、どうしてだか儚く見えてしまったから。

その心の奥に何を隠していますか。

問いたくて、でも、できなかった。

今こんな状況で聞けることではないし、聞いても教えてもらえないと分かっていた。

それに、先輩達がそんなことを私に話してくれるとは思えない。

先輩達の中では、私は"歌姫を望む者"、すなわち、先輩達の"敵"だから。


北斗先輩が無造作に眼鏡を外す。

そして無造作にキャラメルの髪の毛をかきあげた。

くるくるとした愛らしい癖毛がはねている。

先輩達のダークチェリーの瞳が、街灯のオレンジを浴びて妖艶に煌めく。


「…お前らに、歌姫、渡さない」

「私達が手に入れるんだもの」


先輩達は、微笑む。

街灯をスポットライトのように浴びて立つその姿は、妖艶で、威厳があった。

北斗先輩がちらりと男達の方を見ると、ドタバタと倒れた。

その顔はどれも幸せそうで、私は鳥肌が立った。

「…何で。気持ち悪い…」

ほ、北斗先輩。真顔でそんなことを言わないでください!

確かに私もそう思うけど、先輩の真顔は怖いからあっ!

「まぁ、仕方のないことだろうけどね」

ふぅ、と感情なく言った七星先輩が、そのまま私を見た。

「怪我はない?」

笑顔で尋ねられた。

ふわりとした優しい笑顔。

いつもの七星先輩の笑顔だった。

「あ、はい!」

自分でも驚くほど情けない大きな声だった。

ハッとして口を押えると、七星先輩は「それは良かった」と言って笑った。

「…先輩」

私が尋ねると、「何?」と七星先輩は微笑んだ。