天使のアリア––翼の記憶––

「…そんなこと言うなんて、あんた達はバカなのねー? 降参なんてするわけないでしょー?」

きっと乙葉だって不安なはずのに、声色は先ほどと何ら変わらない余裕があった。

「お前の弾はあと1つしかねぇじゃねぇか! それで何ができるっていうんだ!」

不本意だが、男の意見に賛成だ。

もし、それを失ってしまったら、私達には何の抵抗手段もない。

最悪の事態が__死が、待っているのかもしれない。

そう思うと心細く怖かった。

私達が生きるのも、死ぬのも、全てはこの男次第なのだ。


「…弾丸が一発しかないー?」

乙葉は掠れた声を出した。

「だから何なのー? そんなことー、私には全ー然関係ないんだけどー?」

ふふ、と乙葉は笑う。


どうして、そんなに余裕なの?

私達、ここで死ぬかもしれないんだよ!?


「それにー、1発あればー、何だってできるよー? 例えばー、こーんな感じー!」

乙葉は楽しそうにそう言って、ピストルを持っていた手をそのまま上へ、ピストルの銃口を上に向けた。

そして灰色の空をめがけて引き金を引いた。

パン、と乾いた音が鳴り響く。


「なっ!? お、乙葉!?」

い、今撃ったの!? 空に向かって!?

ちょっと待って、何をやってるの!?

それは私達の最後の抵抗手段なんだよ!?

乙葉だって、そのことは知ってるはずなのに!


「ばっ馬鹿かてめぇ! 弾を自ら捨てるなんて、何考えてやがる!」

男も驚きながらそう言った。

「んー? 何を考えてると思うー?」

乙葉は変わらない口調でそう言った。

余裕が漂うその声は、やっぱり気が抜けるようなふんわりしたいつもの声色だった。

「フン、まぁ、いい。これで何の抵抗もなく撃てるんだからなあ!」

男が口元に気味の悪い微笑みを浮かべながら銃口を私達に向け、親指でハンマーを起こした。

私達が次の1秒を生きているかどうかは、私には分からないし、その自信はほとんどない。

全てはこの男の思いのままなのだから。

けれど、男のその人差し指が引き金を引けば、私達は死ぬ。

それだけは痛いほど分かっていた。