天使のアリア––翼の記憶––

「気をつけて帰んな。」

「先輩も!」

いや寧ろ、先輩の方が!

先輩は鈍感で無関心だから、本当に心から気を付けてほしい。


「またな。」

「はい、また!」

手を振る先輩にお辞儀をして、私は家へと向かって歩きだした。


私の家があるのは、閑静な住宅街の一角。そういうこともあって、街灯は多く設置されているので、暗すぎることはない。

それに家々が連ねる団地の先に家があるので、何かあれば団地のお宅に駆け込むことができ、私の方はあまり心配はいらない。


だけど、先輩は大丈夫だろうか。心配で仕方がない。


あたしが先輩のことを心配して仕方がないのは、先輩が美しすぎると言うこともあるけれど、一人暮らしをしておられることにある。


いつか話してくれた先輩の家庭の事情が、少しばかり複雑なんだ。

先輩がまだ赤ちゃんだったころ、ご両親が離婚し、藍羅先輩はお母さんに引き取られた。

しかし、藍羅先輩が小学校4年生のころ、お母さんは新しい彼氏と同棲生活を始めるようになり、全く家には帰らなくなったそうだ。今も連絡はおろか消息すら分からないらしい。


そのため、今は一人でお母さんと住んでいたアパートで暮らしている。家賃や光熱費等、食品なども全て、藍羅先輩が払っていると聞いた。

私達の通う学校はアルバイトが禁止されているが、先輩は特例で許可されている。けれど、それだけでは生活していけず、今日のように定期的にコンサートを開いてお金を集めているんだ。

とても大変だけど、先輩はそんな弱音を吐いたことがない。弱気なところを見せる先輩なんて見たこともない。

先輩は、強いんだ。


先輩は、歌っているときは伸び伸びとしているし、とても楽しそうにも見える。

私と談笑をしているときも、退屈しているようには見えない。




だけどきっと、心のどこかで思っているんだと思う。

寂しいって、思ってると思う。