天使のアリア––翼の記憶––

楽屋の扉を開けると、一瞬足が止まった。

「今回も、凄いですね…」

藍羅先輩は私の言葉に苦笑した。

私達の視線の先には、差し入れがあった。

大量の花束やらお菓子やらぬいぐるみやらが綺麗にラッピングされて、楽屋の隅に置いてある長机3机に渡って、まるで山のように積み上げられている。

きっと観客が受付の人に頼んだのだろうが、凄い数だ。

近寄って見れば、それらの殆どには「星宮藍羅様へ」とメッセージが付けられている。

その中に3つほど私宛の差し入れがあった。見てみると、乙葉とウサギ、北斗先輩と七星先輩、そしてデューク先輩からだった。有難い。

思わず口元が緩んだ。

けれど隣にいる先輩は私とは違う様子だ。

「はぁ。持って帰るのが面倒くさい…。月子、あたし今からちょっと館長のところに行って、宅配便の手配を頼んでくる」

藍羅先輩は溜息混じりにそう言った。

「ついて行きましょうか?」

藍羅先輩のことだ、きっとナンパに遭うだろう。心配だ。

「いや、月子はもう帰りな。わざわざ月子に付いてきてもらう程のことではないし、月子も疲れただろ?」

家に帰ってゆっくり休みな、と先輩は慈悲深く微笑んだ。まるで女神のようだった。

「でも…」

私は先輩の方がずっと心配だと伝えると、先輩は言った。

「本当に心配性だな、月子は」

大丈夫だから、と微笑まれても、説得力はない。

「…絶対絶対、知らない人に付いて行かってはダメですからね! それから、暗くならないうちに帰るんですよ! もし暗くなってしまったら、絶対絶対、タクシー使ってくださいね! 1人で歩いて帰ったら絶対にダメですよ! いいですね、絶対ですよ、約束ですからね!?」

人差し指を立てながら先輩にそう言うと、先輩は呆気に取られたように笑った。

「本当に心配性だなー。大丈…」

「い・い・で・す・ね?」

先輩の声に被せてそう言うと、先輩は渋々頷いてくれた。

念には念を押さないと、心配で心配で傍を離れることもできない。




ロビーに出ると、

「お疲れ様ー、月子ー」

ふわりと微笑んだ乙葉がいた。