天使のアリア––翼の記憶––

先輩の歌声が線となり場内を駆け巡り、この場にいる全ての人の心に届く。

あぁ、どうしてこんなに綺麗なんだろう。

伴奏なんてできやしない。

何か音を漏らしてしまったら、先輩の声を、このメロディを、打ち消してしまうような気がして、何もできない。身動きを取ることすら躊躇(ためら)われた。

聞いているだけで、心を鷲掴みにされたように胸がいっぱいになる。涙が溢れそうなくらいに。

心を込めるように目を閉じて歌う先輩はそこら辺の歌手や高校生とはレベルが違うと痛烈に感じた。

やはり"孤高の歌姫"なんだと実感した。


心が震えるほど、美しくて。

心が洗われるように、麗しくて。


こんなに歌って感動するんだ……。


先輩の伸びやかな美しい声が、会場を包み込む。

メロディに合わせて、先輩の白い手がスッと会場へと伸びる。

その仕草は歌う人なら誰だってする仕草だったけれど、私には女神のように見えた。


次第に声は小さくなり、最後には響きだけが残った。

会場にいる全ての人が、僅かに残る響きに、その余韻に、酔いしれる。

僅か数秒のことだったけれど、私にはとても長く感じられた。

それも完全に消えると先輩のまつ毛が再び上を向いた。

七星先輩によるメイクが施されたキラキラの瞼から澄んだ瞳が現れ、ライトに光り輝いている。

そして微笑みを浮かべて「ありがとう」言えば、観客席から割れんばかりの拍手と歓声が溢れる。

それに混じってドタバタという音が聞こえてきた。きっと藍羅先輩の笑顔にやられたんだろう。可哀想に。


そして眩いステージライトはだんだんとその色を暗くしていき、暗いオレンジ色になる。

私達はオレンジに包まれてステージを後にした。